パロディーにもかかわらず“熱いソウル”を聴かせたブルース・ブラザーズのデビュー盤『ブルースは絆』

2018年5月25日 / 18:00

今年はブルース・ブラザーズ結成40周年にあたる。結成当初はアメリカの人気テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』での、ほんの軽いパロディーのつもりだったのだと思う。今の日本で言えば、お笑い芸人の友近が演じる架空の大御所演歌歌手、水谷千重子に似た感じである。しかし、当時大人気のコメディアン、故ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドのふたりは、続けるにつれて本気モードに突入していく。本作『ブルースは絆(原題:The Briefcase Full of Blues)』は彼らのライヴの模様を収めたデビュー盤で、バックにサザンソウルやブルースの一流ミュージシャンを従え、乗りに乗ったヴォーカルとMCを熱く聴かせる。このアルバムの真剣さが評価されたのか、80年には映画『ブルース・ブラザーズ』が製作され、世界中でヒットした。
『サタデー・ナイト・ライブ』

今の若者がアメリカのお笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ』を観たら、どう言うのかは分からないが、70年代後半から80年代にかけて日本でも部分的に放送されていた。この番組に出ることはスターへの道であることは間違いなく、ブルース・ブラザーズのふたりをはじめ、スティーブ・マーティン(サボテン・ブラザーズ)、チェビー・チェイス(ファール・プレイ)、ビル・マーレイ(ゴースト・バスターズ)、エディ・マーフィ(ビバリーヒルズ・コップ)、ロバート・ダウニー・ジュニア(アイアンマン)ら、出演していた者の多くが大スターになっている。

日本人なので、この番組の受けどころ(アメリカンジョーク)は半分も笑えなかったが、ベルーシのサムライものやジョー・コッカーの物真似はかなり面白かった。
ブルース・ブラザーズ結成

バンド演奏は『サタデー・ナイト・ライブ』の売りのひとつでもあるのだが、ロック好きのベルーシとR&Bやブルース好きのエイクロイドが、オーティス・レディングのバックを務めていたブッカー・T&ザ・MGズの衣装のような黒いスーツ、黒いタイ、レイバンのサングラスといった服装で登場し、ブルースやR&Bを披露すると、これが大いに受けた。もともと、この手の音楽が大好きなエイクロイドは、ベルーシのヴォーカルの才能に惹かれ、このグループで真剣にふざけようと決心するのである。ベルーシもエイクロイドもコメディアンとして評価が高まっていた時期だけに、仕事に練習にとオーバーワークを続けていく。

『サタデー・ナイト・ライブ』の音楽監督を務めていたポール・シェーファーは、彼らが真剣にふざけようとしているのを見て、バックバンドとして超一流のメンバーを集めようと奔走する。そして集まったのが、ギターにスティーブ・クロッパー、ベースに“ドナルド”ダック・ダンといった元MGズのメンバー、凄腕ドラマーのスティーブ・ジョーダン、ブルースギタリストのマット・マーフィー、キーボードはポール・シェーファー、それにジャズやフュージョン界から選抜された4人のホーンセクションなどで、まさに超一流のメンバーによるグループとなった。ベルーシはジェイク・ブルース、エイクロイドはエルウッド・ブルースと名乗り、凝ったキャラ作りをした上でブルース・ブラザーズは活動をスタートする。

そして、『サタデー・ナイト・ライブ』での演奏やリハを繰り返しながら、ほぼ1年後の78年、デビューアルバム用のライヴレコーディングをロスのユニバーサル・アンフィシアターで行なうのである。
本作『ブルースは絆』について

このアルバムがリリースされた1978年という年は、ロックがAORに移行しパンクが終焉を迎えようとしていた時期である。シンセポップやテクノ前夜で、デジタル録音が始まりつつあり、ポピュラー音楽の録音が全般的に薄っぺらくなっていた(デジタル機器が初期であるため)。また、かつてのようなロックスピリットを持った熱いサウンドも少なくなっていた。しかし、ブルース・ブラザーズのメンバーはみんな、ライヴで観客が何を求めているかをしっかり把握していた。オーディエンスは人力でのソウルフルな演奏が聴きたかったのである。

アルバムはオーティス・レディングの「I Can’t Turn You Loose」から始まる。グループ紹介用の短い演奏だが、アップテンポの名演で完璧なメンフィス・ソウルに仕上がっている。というか、演奏するミュージシャンたちの半分が本物だから当然ながら、ご機嫌なグルーブ感が味わえる。このナンバーをはじめ、収録されている12曲は全て50〜70年代のR&Bやブルースばかり(すまん、「B’ Movie Box Car Blues」の1曲だけテキサスのアメリカーナシンガー、デルバート・マクリントンの作品)で、オリジナルのイメージを忠実に再現しているのだが、フロントのベルーシとエイクロイドがロック的な感覚を持っているために、原曲よりは明らかにヘヴィでソリッドな独特のテイストを生み出しているのである。それが実にカッコ良い。本作はリリースされると全米チャート1位となり、日本でもお馴染みとなった「ソウルマン」(オリジナルはサム&デイブ)のシングルヒットが生まれた。
映画『ブルース・ブラザーズ』

本作が全米ナンバー1になったことで、映画化(ジェイクとエルウッドのブルース兄弟による自伝映画という設定)が決まる。監督には『ケンタッキー・フライド・ムービー』(‘77)や『アニマル・ハウス』(’78)などのコメディー映画で知られるジョン・ランディスが選ばれ、脚本はランディスとエイクロイドが共作する。たいした筋はないのだが、ジェームス・ブラウン、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズ、キャブ・キャロウェイらをはじめ、ブルース・ブラザーズの豪華なバックミュージシャンなど、黒人音楽ファンにとっては落涙ものの作品となった。公開は80年で、僕は音楽以外あまり面白いとは思わなかったが、日本でもかなりヒットしたので知っている人も多いはずだ。余談だが、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『1941』(‘79)にはベルーシ、エイクロイド、ランディスという『ブルース・ブラザーズ』にゆかりのある3人が俳優として参加している。ただ、映画自体はどこが面白いのか分からず、この作品はコケた。

ブルース・ブラザーズは映画も音楽(3枚のアルバムをリリース)も順調に活動していたように見えたが、ベルーシは忙しすぎたのも一因で、薬物中毒により82年に33歳の若さで亡くなっている。彼の死によってオリジナルのブルース・ブラザーズは終わりを迎えることになった。しかし、ベルーシ亡き後もエイクロイド及びバックミュージシャンたちはブルース・ブラザーズとしての活動を不定期で続け、98年には映画第二弾『ブルース・ブラザーズ2000』が公開されている。エリック・クラプトンや B.B.キングなど、1作目に勝るとも劣らない豪華ミュージシャンが出演したが、残念ながら興行的には失敗した。
TEXT:河崎直人
アルバム『The Briefcase Full of Blues』
1978年発表作品

<収録曲>

1. オープニング:お前をはなさない / Opening: I Can’t Turn You Loose

2. ヘイ・バーテンダー / Hey Bartender

3. メッシン・ウィズ・ザ・キッド / Messin’ with the Kid

4. オールモスト /(I Got Everything I Need) Almost

5. ラバー・ビスケット / Rubber Biscuit

6. ショト・ガン・ブルース / Shot Gun Blues

7. グルーヴ・ミー / Groove Me

8. アイ・ドント・ノー / I Don’t Know

9. ソウル・マン / Soul Man

10. “B”ムーヴィ・ボックス・カー・ブルース / ‘B’ Movie Box Car Blues

11. フリップ、フロップ・アンド・フライ / Flip, Flop & Fly

12. クロージング:お前をはなさない / Closing: I Can’t Turn You Loose


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