ニック・ムーン、初ソロAL『CIRCUS LOVE』発売記念インタビュー「どういう環境に身を置くかってことが音楽に大きな影響を与えている」(後編)

2018年4月9日 / 17:10

 UK出身ポスト・ロック・バンドのフロントマン=ニック・ムーン。バンドのヴォーカル/キーボードとしてのみならず、ソングライティングにおいても中心人物として、デビュー当初からその完成された世界観とメロディー・センスが高い評価を得てきたニックが、4月11日に初ソロ・アルバム『CIRCUS LOVE』をリリース。

 全曲の作詞・作曲・プロデュースすべてをニック本人が手掛けており、KYTEで表現されたポスト・ロック・サウンドとドリーミーな世界観はそのままに、ニック本人がここ数年間で大きく影響を受けたという、エレクトロニック・ミュージックやシンセ・ポップの要素も多く取り入れた、ダンサブルかつ叙情的な作品に仕上がっている。

 今後は日本にしばらく滞在し、ライブ活動や曲作りを行っていくというニック・ムーン。2月の来日時に行われた彼のインタビューが公開された。

◎ニック・ムーン、初ソロAL『CIRCUS LOVE』発売記念インタビュー(前編) 
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/62076


――日本についても少し伺います。いつ頃から東京に住もうと考えていたんですか?
正直なところ、初めて東京を訪れた時から、いつかゆっくり滞在してみたいなと思っていたんだ。カイト時代はそういうわけにはいかなくて、たいてい数日しかいられなかったけど、いつも面白い体験をしたからね。で、ここ1~2年の間に、もっと深く日本のカルチャーを知って、どんな国なのか掘り下げるべく、真剣に長期滞在を計画し始めた。だって、どの国もそうだろうけど、2日くらい滞在して楽しかったとしても、本当はどういう場所なのか知るのは無理だよね。だから僕にとって、こうして実際に暮らして、特に日本語を勉強して可能な限り語彙を広げて、日本の様々な側面に触れるという体験は、非常に興味深い。自分の故郷とは全く異なる場所、多くの面で正反対とさえ言える場所だし、僕にとってひとつのチャレンジであるだけでなく、音楽作りのインスピレーションを得られると思った。慣れた環境から自分を切り離すわけだから、当然刺激になるよね。

――住処を変えて、初のソロ・アルバムを発表するというわけですから、ここにきて新しい出発を求めていたのかなと思わせるところもあります。
そうなのかもしれない。その点については、深く考えてはいないけどね。なによりもまず、自分を楽しませてくれることを探求するという狙いが、僕の中にあった。だからこそソロで音楽を作り始めたわけだし、過去のことも将来のこともさほど考えていなかった。自宅にスタジオ・スペースを設けてからというもの、それが僕にとって主要な目的になったんだよ。それを実践し、結果的にアルバムという形に発展したんだけど、当初は先のことはあまり意識していなかったな。

――すでに日本でも曲作りはしたんですか?
幾つか断片的なものは作ったよ。キーボードを借りたから、たまに弾いているし。ラップトップ・コンピューターさえあれば、どこにいても音楽は作れる。飛行機の中だろうと、電源さえあればなんとかなる。そんなわけで、日本に来てから、幾つか曲のスケッチみたいなものを作ったんだ。エレクトロニックな音楽の利点はそこにもあるよね。どこにいようが、自分の身の回りからインスピレーションを得て、それを曲として表現すればいいんだから。

――日本で生まれた曲には明らかな違いがありますか?
そう思うよ。なにしろレスターは隅から隅まで知り尽くしているから、自分の音楽を聴くことにすら、適していないんじゃないかと思うこともある。僕は曲をひとつ仕上げると、町を歩きながらそれを聴くのが好きなんだよ。そういう意味で日本にいると、あまりにも町そのものが新鮮だから、どの方角を向いて歩き始めても、必ず初めて目にするものに出くわす。近所のセブン‐イレブンに行くだけでも、途中で面白い刺激を受けて、いい気分になることだってあるよ(笑)。僕はたいてい、自分の気分がいい時に曲を書くんだ。ちょっと説明し難いんだけど。それゆえに、どういう環境に身を置くかってことが音楽に大きな影響を与える。だからどうなるか楽しみだし、東京で作り始めた曲を完成させたら、また報告するよ。

――東京で特にお気に入りの場所はありますか?
以前はずっと渋谷に夢中だったんだ。いつも来日すると渋谷近辺に宿泊していたからなんだろう。今も好きなんだけど、最近はより静かなエリアにも足を延ばしているよ。例えば新宿御苑にはビックリした。東京のど真ん中にこんなセントラル・パークみたいな場所があって、静かで美しくて! しかも入園料はたった100円だから、5時間くらい過ごしちゃったよ(笑)。確か12月だったかな。ほんと、レスターの公園を見せてあげたいよ。どれだけショボいか(笑)。とにかく新宿御苑の中に入ったら紅葉した葉が舞っていて、すごくシネマティックで、「わあ、まるで映画から抜き出したシーンみたいだ!」と思った。その一方で東京には、原宿みたいな雑然とした場所もある。あまりにも多くのものが集まっていて、全てを見ることなんか不可能だよね。ほかにも多分、訪ねるべきエリアがたくさんあるんだろうな。まだ観光客が行きそうな場所しかクリアしていない気がするんだけど、こないだ家から渋谷まで試しに歩いてみたんだ。2時間くらいかかったかな。音楽を聴きながら、住宅街を歩いて風景を楽しんだよ(笑)。人々が普通に暮らしている家を見るだけでも、僕にはすごく興味深いんだ。

――洗濯物が干してあったり?
そうそう(笑)。まさにそういうことが面白かった。ゴミを出している人がいたり……とにかくレスターにいると、何がどこにあるのか、まず知らないことってないんだ。人々がどんな生活をしているのか知り尽くしている。それはそれですごく居心地がいい。でもたまに、頭にガツンと一撃食らわせるような、大胆な変化を求めたりもするんだよね。自分をリセットするというか。年を取ってから、どこか別の場所で暮らすチャンスを逸したと思って、後悔するのはイヤだったのさ。「あの時あそこに行っていたら、どうなっていたんだろう?」と考えたりして。

――次にアルバムの各曲について話を聞かせて下さい。歌詞のこと、レコーディング時の逸話、なんでも構わないんですが、書いた順番に曲を収録したという話でしたよね。
うん、だから今振り返ってみると、変化がはっきりと見て取れると思う。『End/Gone』『Guul』『Space666』『Something』は、ピアノを弾きながら書いていた時期の曲なんだ。当時はまだ自信が足りなかったし、プロダクションに関する知識もさほどなかったからね。でもとにかく曲のアイデアが頭の中にあって、それを形にしたかった。それから、ちょうどあの頃にひとつの恋愛関係が終わって、しかもかなり真剣な関係だったんだよね。だから最初の5曲には、そのことが反映されている。僕は必ずしも怒っているわけじゃない。やたら腹を立てるタイプの人間じゃないからね。ただ、僕は落胆していた。そして苦々しい気分を抱いてはいた。だからそういったフィーリングについて、曲を書いてみたかった。というのも、カイト時代はあまりパーソナルな曲を書いたことがなかったんだ。だからアルバムの前半は、その流れの曲が続く。でもその後の僕はエレクトロニック・ミュージックをたくさん聴き始めて、自分でもその要素を引用したくなった。ドラムのプログラミングなんかにハマったしね。そんなわけで、あとになって最初に書いた数曲に改めて手を加えて、よりエレクトロニックなプロダクションを施したのさ。元々はピアノとヴォーカルだけだったから。と同時に、曲の内容もだんだんポジティヴなものになっていった。プロダクションの腕が上がったことも、僕の気分に影響を与えたのかもしれない。つまり、恋愛を音楽で置き換えたってことだね(笑)。

――それもなんだか悲しいですね。
うん。それに寂しいことではある。でも歌詞はいい感じに上向きの弧を描いていて、後半はハッピーになっていって、自分についてより深い充足感を覚えている。こないだアルバムを聴き直した時、最初の数曲を聴きながら「いったいなんの話だっけ?」と戸惑ったことがあった。奇妙な話なんだけね。というか、もちろん何について書いたのか自覚はあったんだけど、あまりにも長い時間が経過してすっかり乗り越えているから、現実味が薄れているんだ。まるで昔の日記を読み返しているような気分だったね。「うわ、なんて情けないヤツなんだ!」って思いながら(笑)。

――確かに、『End/Gone』と題された曲から始まるというのも面白いですね。
そうなんだよ。大袈裟だよね(笑)。あまりに芝居がかっていて。

――そうすると、曲作りに着手したのはかなり辛い時期だったんですね。
ああ。そうだったと思う。そもそも、当時自分が書いていた曲を誰かが聴くことになるとは思っていなかった。特に『End/Gone』にはそういう無防備さがあった。タイトルからして大袈裟で強烈で、歌詞は当時の僕のポートレイトというか、頭の中にあったことがさらけ出されている。普段は人に話したりしないようなことが。セラピストの世話になった経験はないんだけど、これまでで最も自分の心境を赤裸々にさらけ出した曲だよ。

――それが結果的に、人々が真っ先に聴くシングルになるとは、皮肉な話です。
ほんとだよね(笑)。

――『Something』でも、まだ光は差していないですよね。
うん(笑)。新しい人との出会いを求めて、前進したいと願っているんだけど、そうすることが奇妙に感じられて踏み出せない――という状況だね。歌詞の題材としてはすごく興味深かった。その渦中にいる時は気付かなかったことが多くて。だから、破局がもたらした直接的な痛みや、それがいかに悲惨だったかを描く曲とは違って、たとえ別の人と交際を始めてもなお抱き続けるフィーリングというか、記憶みたいなものを掘り下げている。それは単純な痛みではなく、“疼き”と表現できるフィーリングで、ずっと残るものなんだよ。なぜそれが消えないのか自分でも理解できないし、説明もできない。ものすごく長い年月をその人と一緒に過ごしたから、この先の人生で何が起きようと、その人はずっと自分の一部であり続けるんだ。ある意味、アルバム前半の曲はみんなそういうフィーリングを扱っている気がする。乗り越えて前進しようとしているのに、すごく手こずっている僕の姿なんだよ。

――そういう曲群でありながら、サウンドはすごくカラフルで、濃密で、厚く作り込まれていますよね。音の壁を築いて、その陰に隠れて自分を守ろうとしていたところもあるんでしょうか?
そう思うよ。それは的確な指摘だね。多分最初から、歌詞を隠すために厚いサウンドで包み込もうとしていたところがある。というか、元からこういうサウンドが大好きなんだ。それもある。だとしても、こういうアップビートでポジティヴでメジャー・コードの曲に、本来そこに乗っているべきではないタイプの歌詞が乗っているというのは、面白いんじゃないかと思う。もっと繊細な曲だったら、普通に歌詞とシンクロしただろうから。そんなわけで、自分でもそういうコントラストは自覚していた。「サウンドはポジティヴにしなければ!」とね。

――『So Well』はどうでしょう。すごくポップな曲ですね。
僕にとっては、ある意味でかなりポジティヴな曲だよ。なぜってこの曲は、なにかを乗り越えたあとで感じる安堵感みたいなものを描いているんだ。ここにいたってようやく、破局を振り返っても大きな葛藤を覚えなくなった。いちいち大騒ぎして、心を乱されるようなことがなくなった。ようやく大人な対応ができるようになった(笑)。そういう曲なんだ。そして、僕なりに謝ってもいるんだよ(笑)。

――『Story』はファンキーでさえあります。
そうかもしれない。実は『Story』は、先に曲を仕上げたあとで、歌詞を付け足したんだ。前半の曲と同じ時期に誕生したものの、長い間インストゥルメンタルのままでほったらかしてあった。すごく気に入っていたんだ。合唱スタイルのジャズ・ヴォーカルみたいなサンプルも好きで、ヴォーカル曲に仕上げる必要性があるのか深く考えることなく、ずっと頭の片隅にしまい込んでいた。「いつかヴォーカルを加えてもいいかな」と思いつつ。そして最終的にはポジティヴな曲へと発展したのさ。

――『I Seem To Love』には古いソウル・ヴォーカルみたいに聴こえるサンプルが使われていて、すごく印象的でした。
あれはサンプルなんだけど、僕が自分で歌って、それを重ね合わせてディストーションをかけたんだ。これまでサンプリングってあまりやったことがなくて、僕にとって新しいテクニックだったんだけど、できるだけ自分で歌って、独自のサンプル音源を作っているよ。求めている時代の音源に似せるために、あれこれ手を加えて。音を引き延ばしたり、響きを変えたりできるソフトウェアがあるからね。だからこれからもサンプリングをもっと掘り下げたい。まだまだ始まったばかりだね。ヒップホップの世界に多いけど、サンプリングのテクニックに長けたアーティストは、尊敬せずにいられないんだ。

――こうして歌詞の内容について話を聴いていると、アルバム制作は非常にエモーショナルな作業だったようで、完成した時には一定のカタルシスを得られたんじゃないですか?
そう思うよ。実際に作っている最中は、あまりそういう面は意識していなかった。どちらかと言えば、純粋に音楽作りを楽しんでいた。そして今振り返ってみると、そのエモーショナルな面に深入りすることなく聴けるから、さらに楽しい。不思議なことだよね。特にアルバム前半の曲を聴き直すと、気恥ずかしいというわけじゃないんだけど、こういう曲を自分が書いたという事実に驚かされるんだ。あとで振り返った時に「うわ、これってまさにあの時の僕だ」と愕然とするような曲を、今まで書いたことがなかった。それにもしかしたら僕は、こういうアルバムを作ることを望んでいなかったのかもしれない(笑)。人々に聴かせたくなかったのかもしれない。でも今は気にしていないよ。アルバムを作り始めた時と比べて自信が増したし、作って良かったと思う。みんな一度はやるべきことなのかもしれない。僕は日記を書いたことがないんだけど、このアルバムは日記に最も近いものなんじゃないかな。なんらかの出来事を記録するという意味で。そしてそれを読み返した時に、何か学べることがあるのかもしれない。ほら、人間は自分の人生を振り返った時に、「ああ、僕はなぜあの時あんなに大きな怒りを覚えたんだろう? そんな必要は全くなかったのに」と思ったりするものだよね。こうして曲に綴ることで、立ち直るプロセスをスピードアップできたのかもしれないし、うん、本当に興味深い体験だったよ。

――最後に、このアルバムを聴いて驚くであろうカイトのファンに伝えたいことはありますか?
みんなにこのアルバムが嫌われたとしても、僕は全然怒らないよ(笑)。もし聴いてみて楽しんでもらえたら、それは素晴らしい。でも長年のカイトのファンが「イマイチ好きになれない」と言うなら、そういうリアクションも尊重する。「僕はずっとこういう音楽をやるんだ!」と宣言しているわけじゃないし、なんらかの感想を抱いてくれるというだけで僕はうれしいよ。アルバムを完成させたら、それはもはや僕のものじゃなくなるからね。そこから何かを得る人がいたら素晴らしいことだけど、ほかの音楽を聴きたいならそれも構わない。それぞれの人が、自分が聴きたい音楽から何かを得てくれたらと願うばかりだよ。僕は自分が作る音楽について挑戦的なスタンスをとったり、自信たっぷりに語るタイプじゃないし、聴き手がどう受け止めるのかってことについて、あまり心配しないんだ。とにかく感謝の気持ちで一杯で、アルバムを聴いてみたいという人がいたら大歓迎。興味を持ってもらえなくても気にしない。ダイジョウブ!(笑)

インタビュー:新谷洋子

◎リリース情報
ニック・ムーン
ファースト・アルバム『サーカス・ラヴ』
2018/4/11 RELEASE
<国内盤>CD
SICX-99 2,200円(tax out)
※初回仕様限定 直筆サイン入り紙ジャケット予定

◎出演情報
【アルバム『CIRCUS LOVE』発売記念 東名阪タワーレコードインストア・イベント】
2018年4月14日(土)12:00~
愛知県・名古屋パルコ西館1Fイベントスペース
2018年4月14日(土)19:00~
大阪府・タワーレコード 梅田NU茶屋町店
2018年4月21日(土)12:00~
東京都・タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
2018年4月27日(金)18:30~
東京都・タワーレコード渋谷店

ミニライブ+特典会
※ミニライブは観覧無料

【GREENROOM FESITVAL ’18】
2018年5月26日(土)& 27日(日)

【ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2018「BONES & YAMS」】
2018年6月7日より全国22公演
※オープニングアクトとして出演


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