ブレンデルのシューマンとブラームス 理知で濾過した感性の横溢(Album Review)

2018年3月30日 / 19:00

 2008年末に惜しまれつつ演奏活動から引退したアルフレッド・ブレンデルは今もかくしゃくとしたもので、レクチャーに自作の詩の朗読に、と忙しく毎日を過ごしている模様だ。

 今回発掘されたこのディスクの収録曲はいずれもライヴ録音で、2001年のサイモン・ラトル指揮、ウィーン・フィルとのシューマンの協奏曲と、1979年のブラームス『ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ』がカップリングされている。後者はいままでブレンデルによる録音が存在せず、今回初めてディスコフラフィに入る曲目である。

 相変わらず衒学的な趣きの自筆ライナーノートには、シューマンの協奏曲に関してはスコアの指示に従ったテンポ設定、ブラームスに関しては、自身の録音レパートリー選択に関する興味深い言葉が綴られている。そして、今のブレンデルがこれらの録音を振り返り、いずれにも「お墨付き」を与えている。

 ブレンデルという演奏家は極めて明敏な意識と並外れた知性の持ち主であるがために、その理知的側面ばかりが強調されるきらいがある。しかし「芸術では、カオスは秩序の花々の間からほのかに光り輝かなくてはならない」、というノヴァーリスの言葉を奉じる彼の演奏は、理性のフィルターを通したからこそ輝きを増す感受性の燦めきがある。その特徴を最も如実に示してきたレパートリーのひとつが、ここにも収録されているシューマンである。

 最大の聴き所は、入り組んだリズムにより、気を抜けば迷路で彷徨うことになりかねない第3楽章で、ブレンデルはその推移をしっかりと追い続ける。音楽に無理強いをせず、真っ向からこの曲に対峙しているのだが、極点から迸り出る音楽には、テクストそのものが内包している瑞々しい情緒がはじけている。ブリリアントでこそないが、底光りのする燻し銀の音色が克明に捉えられていることも特筆に値する

 『ヘンデル』の方は、全盛期のとばぐちに立った演奏だけに技巧的にも安定しており、かつ一般的なブレンデルのイメージに、よく符合する演奏だろう。この頃のブレンデルは、まだ晩期の柔軟さや闊達さにこそ到達していないものの、その一種の「硬さ」がいい方に転んでいる。

 ブレンデルいわく「新古典的」で「新バロック的」なこの曲においても、各変奏の表情の陰翳や各声部に散らばる主題断片を慌てず騒がず追う。楽曲のカチッとした統一感を力強く打ち出すべく周到に組み立てられていることが明らかになるにつれ、その統一感が変奏間の個々の差異を増幅させる、という具合に、ミクロな視点とマクロな視点が絶妙に呼応しあう。ヴィルトゥオーゾ的な側面からモダニスムを持ちこもうと試みる演奏の劇的高揚感一切を峻拒する立ち位置もまた、更に明確になる。

 いずれも楽曲に対する深い洞察力に裏打ちされた立派な演奏だが、2つの録音の間に20年以上の疎隔があり、その間にブレンデルが辿った道のりにも思いを馳せさせてくれる。Text:川田朔也

◎リリース情報『ブレンデル・ライヴ・イン・ウィーン

UCCD-1462 3,024円(tax in.)
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
サー・サイモン・ラトル指揮
曲目:シューマン ピアノ協奏曲
ブラームス ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ


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