平成の歌姫、浜崎あゆみの ヒットを探る「臼井孝のヒット曲探検隊 ~アーティスト別 ベストヒット20」

2018年3月15日 / 18:00

『臼井孝のヒット曲探検隊 ~アーティスト別 ベストヒット20』 (okmusic UP's)

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、前回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。
20世紀から21世紀に変わる頃、CD市場全体が右肩下がりになっていく中で、それを感じさせぬ勢いで売れ続けたのが、浜崎あゆみと宇多田ヒカルの2大女性ソロだ。特に浜崎の場合は、最も多い年には7枚のシングル、さらにそれらを収録したオリジナルアルバム、ミュージックビデオやライヴを収録した映像ソフト、さらにはユーロビートからクラシックに至るまで様々なリミックスアルバム(2015年までになんと27作!)と、膨大な量の音楽作品をリリースし、2000年代の音楽市場を大きく支えてきた。
キッズモデルや女優などの活動を経て アーティストに転身

そんな浜崎は1978年福岡県生まれで、それ以前からキッズモデルを経て女優からグラビアまでこなすマルチタレントとして活躍していたが、約1年間の充電期間を経て、1998年4月8日、シングル「poker face」で再スタートした。

デビューから2ヶ月ごとにシングルをリリースし、その張り詰めたように繊細な高音ボーカルが女子高生たちの共感を呼び10万枚前後のヒットを重ね徐々に人気が浸透。デビュー曲から5枚のシングルを収録した1stアルバム『A Song for X X』が140万枚を超えるメガヒットとなり、一気に注目されるようになる。一般に、女性ファンは同性アーティストのシングルをアルバムまで買い控える傾向があるが、彼女の場合、アルバムでのセールス急増がより顕著だった。特に、化粧品や菓子などターゲットが明確なタイアップも多く、アルバム発売時にはさほど音楽に関心のない女性リスナーをも取り込んだのだろう。
その後、1999年4月発売の両A面シングル「LOVE~Destiny~/LOVE~since 1999~」でシングルでも初のオリコン1位を獲得し、以降2010年の「L」まで通算37作の1位は女性ソロアーティストとしては2018年現在も最多記録。2000年の「SEASONS」以降は、限定シングル以外すべて1位となり、オリジナルアルバムも1999年から2004年までミリオンヒットを連発させていた。特に2001年3月28日のベストアルバム『A BEST』は、宇多田ヒカルの2ndアルバム『DISTANCE』と同じ発売日に設定し、共に450万枚を超えるメガヒットとなった(発売週のCDショップの会計を待つ人たちが長蛇の列となっていたのが懐かしい!)。

デビュー当時は孤独をテーマとした楽曲が多かったが、やがて孤独な聞き手を鼓舞するようなパワフルな楽曲が増えていく。それでも年末にはラブバラードを歌うという路線を外すことなく、2001年から史上初となる3年連続の日本レコード大賞を受賞(ちなみにエイベックス所属アーティストの受賞は1995年のTRFから2015年の三代目J Soul Brothersまで21回中14回と、なんと3分の2を占める高確率! これは実際の市場規模の同社シェアを遥かに上回る)。
セールス記録よりも 自由な音楽活動を

2013年に3年ぶりとなる51作目のシングル「Feel the love」が5位に登場し、25作連続1位記録がストップ。この3年の間にシングルチャートの上位は、イベント購入特典で有利な男女アイドルの寡占状態となっていたことも一因だろう。

続くシングル「Terminal」は初登場24位となり、バッシング記事も見られたが、実際は既に発売されていたアルバムからのリカットで、収録曲も「Teminal」とそのリミックス2曲のみ、販売形態もDVDのない1種のみで(オリコン1位記録を更新している時期、収録DVDやジャケット違いの4種で発売したり、週末に急遽4枚同時購入特典を付けたり、まさに記録作りを死守していたのとは対照的)、むしろより自由な音楽活動に向かうために、浜崎サイドからセールス記録をあえて断ち切ったようにも思えた。
近年は長期にわたる全国ホールツアーやアリーナツアーに精力的で、CDシングルは2014年の「Zutto…/Last minute/Walk」、CDアルバムも2016年の『M(A)DE IN JAPAN』以来となっている(2018年3月現在)が、その分、TwitterやInstagramでの投稿などSNSでのお茶目な一面を見せたビジュアルや天然なコメントがファンの間で人気だ。

ただ、本人の存在感が絶対的であるがゆえに、逆に個々のヒット曲についてはさほど語られてこなかった気がする。デビューから今年で20年となる今だからこそ、どのようなヒット曲を残してきたのかを総合的に見てみたい。
総合1位は繊細な感情を熱唱する 2000年発売のシングル「M」

総合1位は2000年発売のシングル「M」。恋の終わりに怯えながらも、恋することを決して抑えられないという繊細な感情を熱唱するのが印象的で、本作からCREA名義での作曲も見られるようになるなど、音楽的により深く関わるようになったことも一因だろうか。また、TVでの白いロングドレスの衣装や、CDセールスでのモーニング娘。の「恋愛レボリューション21」との頂上対決など、何かと話題の大きな作品だった。
なお、配信では25万件以上のダウンロードヒットの11曲中、2006年以降のレコチョク年間TOP100にランクインしたものから上位と決めているため、2000年発売の「M」はここでのルール上10位となっているが、実際は現在でも長くダウンロードされている一曲。というか、そもそも2000年時点でまだ配信すら始まっていないのに、25万件を優に超え、今なお配信で支持されているという事実だけでも、十分“ヒット曲”と呼べるだろう。ちなみに、浜崎あゆみの配信10万件以上のヒット曲は2017年末時点で41曲。これは配信を主力として00年代後半にデビューしたアーティストと比べても引けをとらない。
“泣けるバラード”として評判を呼んだ「SEASON」が総合2位を獲得

そして、総合2位も同じく2000年発売の「SEASON」。ドラマ『天気予報の恋人』主題歌で、過去の想い出をゆっくり癒していくという歌詞を等身大の歌声に乗せることで“泣けるバラード”として評判を呼んだ。また、3ヶ月連続で発売された「vogue」→「Far away」→「SEASONS」と、3作のCDジャケットがリンクしていることも話題となった。
総合3位はカラオケで1位を獲得した 2006年夏のシングル「BLUE BIRD」

総合3位には、2006年夏のシングル「BLUE BIRD」がランクイン。CDセールスは約26万枚と、5枚のミリオンセラーを含め50万枚以上のヒットを連発していた99年~03年より下がっているが、配信では25万件以上で2位、カラオケでは1位となっており、総合で上位入りとなった。本作はゼスプリ「ゴールドキウイ」のCMソングに起用された爽やかなポップチューンだが、《『僕の翼を君にあげる』そう言って君は少し泣いた/こらえきれず僕も泣いた》とあるように、よくよく聞くと「僕」と「僕」の絆を浜崎が歌っているのが新鮮だ。
自身で作詞・作曲を手がけた 「evolution」が総合4位

総合4位は「M」に続くシングルとして発売され、「M」同様に自身で作詞・作曲を手がけた2001年の「evolution」。《こんな時代に生まれついたよ/だけど君に出会えたよ》と早口にまくしたてるポップロック調の楽曲だが、近年のライヴでは、そのパフォーマンスがますますパワフルになっている。
ドラマ『マイリトルシェフ』主題歌の 「Voyage」が総合5位にランクイン

総合5位にはドラマ『マイリトルシェフ』主題歌となった2002年の「Voyage」、総合7位にはアニメ『犬夜叉』のエンディングテーマとなった「Dearest」がランクインし、共に、その年の秋に発売されたバラードで、その数ヶ月後に日本レコード大賞を受賞している。また、間の総合6位には、かつての恋人を想い続ける暖かな歌詞が印象的な2009年の「Days」が入りこちらもバラードだ。
2003年にデビュー5年ながら『A BALLADS』というバラード縛りのアルバムが出せるほど、彼女にとっても、またリスナーにとってもやはりバラードの存在は大きい。ちなみに、本作では荒井由実の「卒業写真」がカバーされており、お気づきの方も多いだろうが、彼女のオリジナル曲はすべてアルファベット表記ゆえ、この漢字表記がとても新鮮に見えるほどだ。日本人がイメージしやすい英語も限られているので(笑)、新たなステップを踏むためにも、今後、漢字表記のオリジナル曲を浜崎が作るというのも意外な一手となるような気もする。
自身初のミリオンセラーシングル 「Boys & Girls」が総合8位に

総合8位には1999年のシングル「Boys & Girls」がランクイン。本作で自身初のシングルでのミリオンセラーを達成した。これは8cmから12cmシングルに移行するにあたり、収録時間を大幅に増やしたこともヒット要因だろう。表題曲8バージョンのほか、前作「TO BE」と前々作「Love ~Destiny~」の別バージョンの合計10曲を収録し、お得感を助長した。
ちなみに最も売れたシングルは1999年の4曲A面シングル「A」で、その4曲すべてに浜崎本人が出演するCMタイアップが付いた。本作でも別バージョンやカラオケなど全14トラックを収録し自己ベストの約163万枚という売上に。この4曲すべてが勝負作というシングルは史上初だが、その一方で収録された「monochrome」「too late」「Trauma」「End roll」のプロモーションが分散してしまったせいか、この4曲ともカラオケの上位20曲に入っておらず、この総合ヒット分析でも形式的に1曲目に収録された「monochrome」が11位に入っているのみ。

これに対し、前述の「Boys & Girls」は《輝きだした僕らをだれーが!》と叫んで、その後の《止めることなど出来るだろう》を観客が歌うというコール&レスポンスがお約束となるほどのライヴ定番のアッパーチューンで、こちらはカラオケでも15位にランクイン。こうして見ると、同じ大容量シングルでもプロモーションを1曲に集中したシングルの方が、結果として印象的な楽曲が生まれるのかもしれない。
アルバムオリジナル曲も 2曲が総合TOP10入り

2002年のオリコン年間では、浜崎あゆみの「H」(シングル5位)のみが唯一のミリオンセラーと報じられたが、これは年間ランキングの集計が終了する2週間前に“ミリオンヒット記念盤”として3種類のジャケットが楽しめる限定盤を追加発売し、累計95万枚前後で停滞していた売上からギリギリ100万枚まで売り伸ばした。彼女の作品の場合、後に数字が歴史上に残ることも見据えた見事な戦略が非常に多く、そのヒットを辿るだけでも、ある種のマーケティングの勉強になりそうだ。

しかも、シングル以上にアルバムでヒットを飛ばしていたこともあり、9位に「Who…」、10位に「JEWEL」と2曲のアルバムオリジナル曲が総合TOP10入りしているのも注目点だろう。「Who…」の方は1999年11月発売の2ndアルバム『LOVEppears』(これもシングル「Appears」との対比となるセミヌード・ジャケットで“白あゆ”“黒あゆ”と大きな話題に)の本編ラストに収録されたバラードで《これからもずっとこの歌声が/あなたに届きます様にと》というサビの歌詞からライヴの終盤で歌われることの多い人気曲、また「JEWEL」はPanasonicのCMソングに起用され《君の笑顔が/僕の大切な宝物》と温かく歌ったラブソングで、共に配信とカラオケで強く支持されている。

他にも本人初のデジタルシングルで、配信で25万件以上のヒットとなった「Together When…」が12位(世間的にさほど知られていなかった段階でも『NHK紅白歌合戦』で歌唱できたという好待遇も話題に)、1stアルバムのタイトル曲「A Song for XX」が14位と、アルバム曲がランクインしている。
全体的に切ないバラードや 爽やかなアッパーチューンが人気曲

こうして見ると、全般に切ないバラードや爽やかなアッパーチューンが人気だということが分かるが、近年の彼女はよりハードな演奏やそれにも負けず劣らず激しい歌唱というスタイルが多いように思える。現に前述の「A Song for X X」も、2016年の『ミュージックステーションスペシャル』に出演した際、《居場所がなかった/見つからなかった》という歌詞をタフに叫ぶように歌い、原曲の少女ゆえの悲痛な叫びを超えて、凄まじく大きなテーマに変わっていたのが興味深かった。

筆者自身が、その変化を最初に感じたのは2005年のシングル「Bold & Delicious」だろうか。本作はCDの売上が前シングル「HEAVEN」から33万枚→13万枚と急落し、配信やカラオケでも彼女のTOP30に入っていないが、その作品にかけた熱量は過去最大級かと思ったほどだ。なにしろ“ヤーヤーヤーヤーガーガーガーガー”という怒涛のコーラスから始まって、サビで“Bold&Delicous!!”とゴスペル調の女性コーラスが入り、それに対し、本人も“(そう自由に)なってぇ!”とハイテンションなシャウトで応酬している。そこにはかつての切なさや可愛さは微塵に感じられず、上位曲が好きなファンにとっては“需要なき供給”のように思われがちだが、本作があったからこそ、後年のより自由な作品作りや力強いパフォーマンスに彼女が覚醒できたのではないか、と思っている。

最近は新曲のリリースよりも長期的なライヴやSNSでの情報発信に注力しているが、ライヴでの実績がすこぶる多い彼女だからこそ、また、ヒットの指標がCDセールスだけではなくなった今だからこそ、本当に伝えたい楽曲が伝わるような気がする。是非とも新たな代表曲が生まれることに期待したい。
プロフィール

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析やau MUSIC Storeでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。Twitterは @t2umusic、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ、ビルボード、各番組で紹介された独自ランキングなどなど、様々なヒット情報を分析してお伝えしています。気軽にフォローしてください♪


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