バティアシュヴィリの『ヴィジョンズ・オブ・プロコフィエフ』(Album Review)

2018年2月26日 / 18:00

 ジョージアの首都トビリシ出身のヴァイオリニスト、バティアシュヴィリの新譜は、彼女を「テレビで聴いて以来」お気に入りのヴァイオリニストの一人と言う、ネゼ=セガンとのプロコフィエフだ。

 ディスクは、冒頭、真ん中、最後にそれぞれ1935年から書き始められた『ロミオとジュリエット』から騎士の踊り、1944年に完成された『シンデレラ』のグランド・ワルツ、1919年の『3つのオレンジへの恋』の行進曲というバレエやオペラからの抜粋を置き、2つのヴァイオリン協奏曲をサンドする構成になっている。

 冒頭の『ロミジュリ』から、バティアシュヴィリの音色に魅了される。彼女がボウを一閃させれば、甘みと渋み、柔らかさと鋭さ、静けさと烈しさのいずれもがバランスよく描き出される。この表現の幅と、よい意味での線の細さが、気高い気品を醸し出す。あらゆる葉脈に潤いを行き渡らせるこの音が作りなす渺々たる立体感も格別だ。ネゼ=セガン率いるヨーロッパ室内管もこの音色にマッチしたクリアな音響を志向し、ソリストと室内楽的な関係性を保って小気味よい躍動感生み出し、全員が同じ方向を向いている。

 プロコフィエフがロシア革命によって亡命を選択する直前の1917年に書かれた第1協奏曲の第1楽章は、天上的とも言うべき響きが耳を打つ。第2主題部から表情を変えて若きプロコフィエフらしい諧謔味を抉り出すが、粗暴になりすぎる瞬間も、熱に浮かされて音が掠れることもない。しかし情感に不足はなく、コントラストは自然と浮き上がってくる。

 これは技巧的難度が極めて高い第2楽章のスケルツォでも同じである。十二分に熱っぽくはあるのだが、弓圧を加え過ぎることのない柔らかなボウイングから放たれるつむじ風とピツィカートは、よくありがちな無骨な手触りではなく、滑らかな運動性に満ちている。

 大仰にデュナーミクの差を付けこそしないが緩急を効果的に効かせて活力は漲る。低音域で蠢くヴァイオリンが高音域へ駆け上がる箇所など、その色気にゾクゾクさせられる。変奏が折り重なる第3楽章では、最初は控えめに、やがて厚みを増すオケと手を取り合い、めくるめく表情を引き出してくる。

 プロコフィエフが世界的名声を手にし、亡命生活からソビエトへ帰らんとする1935年に書かれた第2協奏曲は、嘗てのアヴァンギャルドな作風から離れた、かなり古典的なフォルムに特徴がある。彼らはプロコフィエフの「新しい単純性」に軸足を置くとともに、望郷的なノスタルジー漂うロシアの薫りを濃厚に引き出している。分散和音のアルベルティ・バスの上に奏でられる、プロコフィエフが書いた最も抒情的で美しい旋律のひとつが聴ける第2楽章の詩情は格別だ。第3楽章では、複雑なリズム処理の巧みさといい、明確に切り出すスペイン民族舞曲の息づかいといい、まったく隙がない。

 かくしてプロコフィエフの人生を、編年体でこそないものの、ヴァイオリンで辿って1枚のアルバムに凝縮しようとする明快な「ヴィジョン」が立ち現れてくることになる。Text:川田朔也

◎リリース情報
プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番、第2番ほか
リサ・バティアシュヴィリ(ヴァイオリン)
ヨーロッパ室内管弦楽団
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
UCCG-1790 3024円(tax.in)


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