「臼井孝のヒット曲探検隊~アーティスト別 ベストヒット20」ラブソングとエールソング、どちらが人気!?ドリカムのベストヒットを探る!

2018年2月22日 / 18:00

(okmusic UP's)

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、第3回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。
アルバムアーティストとしての 意気込みを感じさせる シングルとアルバムの同時デビュー

DREAMS COME TRUE(以降、愛称の「ドリカム」と呼ぶことにする)は、ヴォーカルの吉田美和とベースの中村正人、キーボードの西川隆宏という3人編成にて、1989年3月21日にシングル「あなたに会いたくて」とアルバム『DREAMS COME TRUE』にてデビュー。シングルとアルバムの同時デビューという点から、すでにアルバムアーティストとしての意気込みを感じさせる。

ソウルやファンクといった洋楽のエッセンスを取り込んだポップミュージックや吉田美和の華やかな歌声はFMラジオや音楽誌で好評を得てきたが、世間一般に知られるようになったのは1990年2月発売の5thシングル「笑顔の行方」から。同作は中山美穂主演のドラマ『卒業』の主題歌として、就職や恋愛で揺れ動く若い女性の心理と見事にシンクロし、ロングヒット。これにより、以降の新作シングルやアルバムはヒットを連発し、旧作のアルバムも再チャートインするように。

特に、前年11月に発売された2ndアルバム『LOVE GOES ON…』は初登場13位から徐々にセールスが下降していたが、ドラマ開始とともに再浮上、終盤に差し掛かった90年3月に8位まで上昇、その後1996年6月まで累計229週もTOP100入りするという驚異的なロングセラーとなる。本作には「うれしい!たのしい!大好き!」と「未来予想図II」が同時に収録され、まだシングル以外の楽曲をダウンロードなどで購入できず、中古やオークションも今ほど活発ではなかった時期ならではの驚異的な記録と言えるだろう(ちなみに、2010年代以降はCDではなく、配信チャートにてロングヒットは多数出ており、現に2015年に発売されたオールタイムベスト『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』は、レコチョクやiTUnesでの配信チャートには発売開始以来TOP100内をキープするほどのロングヒットとなっている)。
カラオケ向けのJ-POP系から コアな音楽ファンが求めるような楽曲へ

話を元に戻すと、1990年以降も順調にヒットを重ね、1992年にはTVのレギュラー番組『うれしたのし大好き』を持つほどの人気に。秋には同番組の主題歌「決戦は金曜日」と、NHK連続テレビ小説『ひらり』の主題歌では初となるJ-POP系の楽曲として「晴れたらいいね」が9月と10月に相次いで発売され、その勢いに乗って11月発売の5thアルバム『The Swinging Star』は累計320万枚を超える自己最高のセールスとなった。

その後、1995年7月の18thシングル「LOVE LOVE LOVE」で自己最高となる250万枚級のメガヒットを記録するも海外進出を意識し始めたのか、徐々に楽曲はカラオケ向けというよりも(いや、それまでも歌うのは難しかったのだが、キャッチーでポップゆえ上手く歌えた場合、大きな達成感があった)、よりコアな音楽ファンが求めるような作風に変わっていった。

彼らが築いた「女性ソロボーカル+2人の男性による演奏」といういわゆる“ドリカム編成”のアーティストが、globeやEvery Little Thing、さらにはバラエティー番組発でポケットビスケッツなど、相次いで登場していったが、その中でEvery Little Thingが1997年~1999年、もっとも勢いに乗って活躍できたのは、この時期のドリカムが遠ざかりつつあったポップな要素を上手く取り込んだことも大きいのではないだろうか。
海外での展開を視野に入れ ヴァージンレコード・アメリカに移籍

1997年にそれまでのソニーから海外での展開を視野に入れヴァージンレコード・アメリカに移籍し、1998年以降、海外で作品をリリースし、プロモーションも果敢に実施。1999年のシングル「朝がまた来る」がドラマ『救命病棟24時』の主題歌となり、久しぶりの大ヒットとなるも、海外でのメンバー稼働に時間を割かれたことや、音楽的に過渡期にあったためか、この時期に以前ほどの華々しいヒットは少なく、その中で2002年にメンバーの西川隆弘が脱退し、以降は吉田美和と中村正人の二人体制となった。

しかし、2004年にユニバーサルミュージックに移籍してからは、「やさしいキスをして」「何度でも」「ア・イ・シ・テ・ルのサイン~わたしたちの未来予想図~」など明らかに大衆を意識したJ-POP路線の楽曲が増え、以前のカラオケヒットに加え、普及し始めた着うたでのヒットも出るようになった。実際、中村のインタビューからも「めざせサザン!」「EXILEがライバル」といった発言が飛び出すようになった。

2015年には3枚組のベストアルバム『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』を発売し、CDと配信とで合計100万枚分をゆうに超え、2010年代のベテランアーティストによる“オールタイムベスト”の代表作となった。
この3枚組ベストは、それぞれ“LOVE”、“TEARS”、“LIFE”をテーマとしたディスクで構成されていたが、このうち、どのテーマの楽曲がもっとも人気なのかということにも注目してみたい。
総合ランキングの1位は ドラマ『愛していると言ってくれ』の 主題歌「LOVE LOVE LOVE」

3部門で決まった総合ランキングの1位は、95年のドラマ『愛していると言ってくれ』の主題歌となった「LOVE LOVE LOVE」。ドラマ中では筆談や手話が恋愛上のコミュニケーションに使われたことが話題となり、同クール内で最大人気となったことも、本作がドリカムの中で突出した約249万枚というCDセールスになった要因だろうが、この「LOVE LOVE LOVE」はコアなファンによる人気投票では決して上位にはならない。無論、コアなファンもライヴでは大合唱をするのだろうが、この究極のシンプルにまとめたこの一曲だけで、複雑なメロディーや絶妙な歌詞表現の多いドリカムを語ってほしくないという想いもあるのかもしれない。

実際に、CD、配信、カラオケの3部門全てでTOP10入りしているのは、本作のみだが、この80ポイントそこそこというのは、他のアーティストでは3番手になる程度の支持で、サザンオールスターズにおける「TSUNAMI」やSMAPにおける「世界に一つだけの花」のように全部門を制覇するような絶対的エースという感じではない。つまり、それだけドリカムのヒットは意見が大きく分かれるのだ。
75万件を超えのドリカム最大配信ヒット「何度でも」が総合2位にランクイン

総合2位は、2005年のシングル「何度でも」。発売当時は3度目の起用となったフジテレビ系ドラマ『救命病棟24時』の主題歌としてスマッシュヒットしたが、その後、映画『Mayu』主題歌や、浅田真央が出演する「住友生命」のCMソングにも起用され、さらに彼ら自身が『NHK紅白歌合戦』などの大型音楽番組で披露したり、カラオケ番組で実力派ヴォーカリストがカバーしたりすることで、まさに“何度でも”再浮上した結果、75万件を超えドリカム最大の配信ヒットとなった。特に、東日本大震災以降、その不屈の精神を象徴するエールソングとして再浮上する傾向がいっそう顕著となり、今も配信では継続的に売れているので、いずれ自身初の配信ミリオンヒットとなりそうだ(なお、この数字には、2011年3月28日~同年4月27日までに実施された無料配信分は含まれていない)。
“悲しい状況を歌い上げる”ラブソング「やさしいキスをして」が総合3位に

総合3位は、彼らのメジャー復帰第1弾シングルとなった2004年の「やさしいキスをして」。中居正広が天才ピアニストを演じてリメイクしたTBS系ドラマ『砂の器』の主題歌だが、複雑な生い立ちの主人公を反映してか、《報われなくても 結ばれなくても/ただ一人の 運命の人》という立場によっては祝福されないであろうラブソングを、ドリカムがマイナー調のメロディーにて愛を貫くような強いヴォーカルで歌いきることで見事に体現している。この“悲しい状況を歌い上げる”というのもドリカムの得意とするスタイルだろう。(他に、91年の「忘れないで」や96年の「そうだよ」など)。
本作のCDは約32万枚に対し、配信は当時着うたフルが解禁されていなかったにもかかわらず、その後セールスを伸ばし50万ダウンロードを突破している。

ドリカムの場合、CDセールスでは90年代の楽曲が上位を占めるのに対し、配信セールスでは50万件以上を突破した4曲のうち「何度でも」「ア・イ・シ・テ・ルのサイン~わたしたちの未来予想図~」「やさしいキスをして」の3曲が00年代以降の楽曲となっている。また、最新アルバム『THE DREAM QUEST』に収録されている「あなたのように」まで、2017年末現在、16曲もの楽曲が配信で10万件以上のヒットとなっており、この配信ヒット曲数は80年代までにデビューしたアーティストとしては最高レベル。それだけ、彼らが若い世代にも支持されてきたということだろう。
総合4位を獲得したは なんとアルバムの収録曲!?

そして、総合4位には、なんと1989年のアルバム『LOVE GOES ON…』の収録曲「未来予想図II」がランクイン。カラオケではダントツの1位で、実際、1990年代から現在に至るまで歌が上手いと言われる幅広い層の女性がこぞって熱唱するバラードの定番であり、後半のフェイクやハイトーンが難しいからこそ、ハイレベルな歌唱力が必要とされる名曲だ。

また、配信も4位と大健闘している。当然ながら1989年当時は配信サービス自体がなかったのだが、2007年にシングル「ア・イ・シ・テ・ルのサイン」のカップリングとして「未来予想図II ~VERSION’07~」が配信され、オリジナルバージョンも09年に配信開始し、ともにロングヒットを重ねて50万件を突破した。ちなみに、これまで本作がレコチョクの年間ランキングTOP100に入ったことは一度もない。それでも、純粋に買って聴いてみたいという人がじわじわ生じたことによる50万件突破しているので、まさに本当の名曲なのだろう。
確かに、《ブレーキランプ 5回点滅 ア・イ・シ・テ・ルのサイン》といったアルバム収録曲のワンフレーズが、国民的に知られているというアーティストは、ほんの一握りだろう。これは、CDシングルの売上では見えない真のヒット曲だ。
総合5位はコミカルかつラブリーな 全編大阪弁のラブソング!

総合5位は、全編大阪弁のラブソング「大阪LOVER」がランクイン。大阪を舞台にしたリアルな描写(0時ちょい前の新大阪駅に着くとか、御堂筋が一車線しか動かないとか)も上手いし、ちょっとトボけた彼氏に常に心の中でツッコミを入れている彼女の心の動きもコミカルかつラブリーで楽しい。また、4つ打ちのリズムにブレスのタイミングもなく歌詞が詰め込まれており、これまたヒットすべきポップな内容なのにカラオケ超上級者向けで、これもカラオケが3位と好調な要因かもしれない。ちなみに、2017年にはこの続編となる「あなたと同じ空の下」も発表されており、ともにユニバーサル・スタジオ・ジャパンのタイアップソングとなっている。
その他にも、総合6位に、陣内孝則と共に司会も務めた深夜番組『うれしたのし大好き』のテーマソングとなった1992年の「決戦は金曜日」、7位に当初ノンタイアップ扱いで、さほどインパクト重視ではないバラードだが、フラれた女友達と彼女を慰める女性との温かい友情ソングとしてCDがロングヒットした1995年の「サンキュ.」がランクイン。いずれも、CDは約107万枚とミリオンヒットを記録している。また、9位の「WINTER SONG」も1994年版(約99万枚)と1998年版(約8万枚)の両シングルを合計すると、こちらもミリオンセラーだ。ちなみに、本作は日本人の歌う英語曲としてはオリコン史上最高のセールスとなっている。彼女の明瞭な発音と、英語の苦手な日本人でも理解できるような比較的やさしい英語、そして泣けるバラードというヒット要素が詰まっていることが、言葉の障壁を超えた大ヒットとなったのだろう。
総合8位は「未来予想図」シリーズの カップルの“今”を描いた大ヒット曲

これらのCDヒット曲に分け入って総合8位に入ったのが、2007年のシングル「ア・イ・シ・テ・ルのサイン~わたしたちの未来予想図~」。「未来予想図」「未来予想図II」の世界観を反映した映画『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』の主題歌として、そのカップルの“今”を想定して書き下ろされ、配信では75万件を超える大ヒットとなった。

このように代表曲を語っているとキリがないのがドリカムの特長でもあるのだが、これらの名曲たちに次いで、アルバム収録曲の「HAPPY HAPPY BIRTHDAY」が11位と大健闘している。こちらは93年のアルバム『MAGIC』のラストに収録された1分15秒ほどの短い楽曲だが、ハイレベルなゴスペルが展開される、かわいらしくもカッコいい作品。本作がかかった途端、その場は祝福ムードに包まれるので、そういった演出効果としてダウンロードしたり(10位)、カラオケで歌ったり(11位)する人が20年以上経った今でも、かなり多いということかもしれない。
ラブソングだけでなく エールソングの比率も高い

そして、ここで『私のドリカム』のテーマ別の上位ランクイン数を見てみると、TOP20中のベスト盤収録17曲中、“LOVE”が8曲、“TEARS”が2曲、そして“LIFE”ソングが7曲となった。特に初期にラブソングが多いと思われるドリカムだが、それとほぼ同等で“LIFE”を綴ったエールソングも人気。例えば、3大女性シンガーソングライターと言われる、中島みゆき、松任谷由実、竹内まりやでもこの3要素のそれぞれの代表曲はあるが、これほどまでエールソングの比率が高いのはドリカムならではだろう。これも、世知辛い世の中や前述の東日本大震災など、苦境を乗り越えるのに彼らのパワフルなステージや楽曲がより必要とされているということだろうか。

2017年10月には、約3年ぶりとなるオリジナルアルバム『THE DREAM QUEST』を発売。本作には「九州をどこまでも」「愛しのライリー」「あなたのように」「KNOCKKNOCK!」「あなたと同じ空の下」「その日は必ず来る」と6作もの配信限定シングルが収録され、いずれも映画やCMなどの大型タイアップが付いて、配信で週間TOP10入りはしているものの、アルバム売上は累計13万枚弱(2018年2月現在)にとどまっている。アルバムの内容としては前述の“LIFE”要素がより色濃くなっており、もしかすると、このSNS時代ではそれにアレルギーを起こしている人がいるのかもしれない。また、ディテールの効いた恋愛模様の表現が秀逸なドリカムだからこそ、“LOVE”ソングや“TEAR”ソングを渇望する長年のファンが多いことも予想できる。
ドリカムの中村正人自身もさまざまなインタビューでそれを自覚していることを語っているのだが、それでも超ポジティブな作風は一切ブレず、むしろ年々強まっている気がする。しかも、それに応じた超アクティブなステージ演出、超ファンキーな楽曲、そして超パワフルな吉田の歌唱と、あらゆる面で振り切っているのは、この混沌とした社会の中でもかき消されぬ、長期的に記憶されるような活動にシフトしたということだろうか。

その意味では、東日本大震災の時に大きく再評価されたように今後も何かが起こるたびに、ドリカムの音楽は希望の灯として、いっそう求められる時代が必ず来そうな気がする。
プロフィール

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析やau MUSIC Storeでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。Twitterは @t2umusic、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ、ビルボード、各番組で紹介された独自ランキングなどなど、様々なヒット情報を分析してお伝えしています。気軽にフォローしてください♪


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