黒魔術やオカルトを具現化したブラック・サバスの『パラノイド』は最初期のヘヴィメタル作品だ

2017年12月1日 / 18:00

これだけはおさえたい洋楽名盤列伝! (okmusic UP's)

ブリティッシュロックの中から登場したハードロックは、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルをはじめ、言うまでもなくアメリカのブルースをルーツにしている。しかし、ブラック・サバスはデビュー当時から他のハードロックグループと比べてもまったく毛色が違ったサウンドだった。黒魔術やオカルトなど、中世の暗黒部分を具現化したような音作りはそれだけで革命的なものであったと言えるだろう。今回紹介する彼らの2ndアルバム『パラノイド』は、そのスタイルが完成された作品であり、80sのヘヴィメタルバンドや90sのグランジ、オルタナティブのロッカーたちに大きな影響を与えた記念すべき作品である。
H. P. ラブクラフト

アメリカのゴシックホラー作家として知られるラブクラフトの作品を読んだことがあるだろうか。僕が彼の作品で恐怖を感じたのは『ピックマンのモデル』という短編だ。今年、『東京グール』という食屍鬼(グール)が登場する映画が公開されたが、まさにこのグールが登場する物語である。
この小説、ピックマンという風変わりな画家の『食屍鬼の採餌』という作品の恐ろしさに惹かれる男の話である。主人公はピックマンの描く真に迫った恐怖絵がどのように描かれているのかを見たくなり、彼のアトリエを訪問するのだが、そこには実際に魑魅魍魎が…という小説だ。この短編は1926年に書かれたもので、ラブクラフトはスティーブン・キングなどに影響を与えただけでなく、ブラム・ストーカー、エドガー・アラン・ポー、レ・ファニュなどの第一世代怪奇小説に次ぐ新世代の作家として活躍したのである。
ブラック・サバスのサウンドと デビュー作の成功

ブラック・サバスのメンバーはラブクラフトに代表されるゴシックホラーやオカルトに興味を持っており、当時イギリスで流行していた黒魔術にも影響を受けている。デビューにあたってハードロック的な要素を中心に据えつつ、芝居がかった黒魔術的なサウンドを盛り込もうとリハーサルをスタートさせるが、グループ結成後すぐに彼らが思い描くおどろおどろしいイメージを具体化する。実は、この部分だけでもブラック・サバスの才能は大したものなのである。ホラー映画を観たりオカルト小説を読んで、それを的確に音楽として表現することは至難の技だと言えるだろう。それを20歳そこそこの彼らが成し遂げるのだからすごいと思う。グループ名は1964年に公開されたB級ホラー映画『ブラック・サバス』からいただいている。それにしても“黒い安息日”とは、彼らのイメージ通りの名前であり、デビュー前から一本筋の通ったホラー路線をしっかり貫いていたのだ。
1970年2月13日の金曜日、彼らのデビューアルバム『黒い安息日』がリリースされる。サウンドはもちろん、ジャケットデザインも彼らのイメージにぴったりの中世の怪談風であった。当時、流行っていたハードロックより重いサウンドだったので、ヘヴィロックという表現がされていたのを記憶している。オジー・オズボーンのヴォーカル、トニー・アイオミのギター、ギーザー・バトラーのベース、ビル・ワード(読み方はウォードが正しい)のドラムからなるトリオ演奏(オーバーダビングはされている)だけにシンプルで、遅いBPMから繰り出される重苦しいリズムやパワーコードを多用したギターワークは、当時他のハードロックグループには見られない方法論であった。この作品ですでに後のヘヴィメタルの原型が確立されていた。キーボードを使用しなかったことと、ギタリストのトニー・アイオミが弾く独特のヘヴィメタ的なリフは革新的なものであった。
この作品は、全英チャート8位、全米でも23位となり、1年後には100万枚を売り上げるヒットとなっただけでなく、『イン・ロック』(‘70)以降のディープ・パープルに大きな影響を与えたことは間違いない。
本作『パラノイド』について

ただ、デビューアルバムには、ブルースをベースにしたナンバーも収録されており、彼らのオカルト的なイメージが100パーセント発揮できたわけではなかった。しかし、デビューアルバムと同年リリースの本作『パラノイド』では、グループとしての完成度がより高くなり、収録された8曲全曲がブラック・サバスを代表するナンバーと言っても過言ではなく、オリジナリティーにあふれた出来となった。冒頭の8分近くに及ぶ「ウォー・ピッグス」の緻密かつスリリングな展開は、まさにロックの醍醐味を感じさせる名曲で、トニー・アイオミとギーザー・バトラーのインタープレイはすごいとしか言いようがない。彼らのもっともよく知られた「パラノイド」はシングルカットされ全英4位となるなど、彼らの人気に火をつけたナンバーも収められている。
「アイアン・マン」と「エレクトリック・フューネラル」は、オジーのヴォーカルとアイオミのギターがユニゾンでハモるという新機軸を打ち出した意欲作で、70年には完全にヘヴィメタが完成していた貴重なサンプルだと言えるだろう。それにしても、アイオミの仕事ぶりはすごい。ギターのオーバーダビングがやたら多く、リズムギターだけでなくリードギターも重ねまくっていて、彼の地道な支えがあってこそのサバスだと言えるのだ。特に本作の最後の曲「フェアリーズ・ウェアー・ブーツ」は、当時のロック界では珍しいオクターブ奏法を聴かせるなど、彼の独壇場だ。アイオミは、まさしく70sロックの一時代を築いたスーパーギタリストのひとりなのである。
日本公演の中止

その昔、僕がまだ中学生の頃の1971年、日本でもサバスの人気はすごくて、来日公演も予定されていたのだけれど、確かトニー・アイオミが病気だとかで、コンサートが中止になったことがあった。ブラック・サバス絶頂期の時期なので、その時に来日していたらすごいパフォーマンスが体験できたはずで、これは今でも残念だ。
これまでブラック・サバスを聴いたことがないなら、この機会にぜひ聴いてみてほしい。初期の5枚『黒い安息日』(‘70)、『パラノイド』(’70)、『マスター・オブ・リアリティ』(‘71)、『ブラック・サバス4』(’72)、『血まみれの安息日』(‘73)はどれも秀作なので、よろしく♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Paranoid』
1970年発表作品


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