<コラム>ようやくヒップホップやR&Bに光……2018年【グラミー賞】ノミネーションが示す新たな方向性

2017年11月29日 / 14:30

 2015年【グラミー賞】<年間最優秀アルバム>の最有力候補とみられていたビヨンセを下し、ベックが受賞したことが論争を引き起こしてから3年。ベックに罪はないものの、以前よりヒップホップやR&Bを正当に評価していないと批判されていた同賞は、この件をきっかけに切望されていたルール変更や新たな委員会の設立などの改革に乗り出し、今年になってようやくその成果が現れてきたようだ。

 2018年の<年間最優秀アルバム>や<年間最優秀レコード>などの主要部門はラップやR&Bが優勢で、大本命のジェイ・Zやケンドリック・ラマーの他にもブルーノ・マーズやチャイルディッシュ・ガンビーノなどが名を連ねている。この4名はいずれも<年間最優秀アルバム>と<年間最優秀レコード>両方にノミネートされており、アルバム部門の5人目はロード(『メロドラマ』)、レコード部門はルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「デスパシートfeat.ジャスティン・ビーバー」がそれぞれ入っている。

 2018年の【グラミー賞】の大きな特徴は、ロックやカントリーに分類されるアーティストが全くと言っていいほど主要部門にノミネートされていないことだ。この意味で特にその不在が顕著なのがエド・シーランで、今年『÷』(ディバイド)と、その1stシングル「シェイプ・オブ・ユー」が世界的に大成功しているにもかかわらず、主要4部門(アルバム、レコード、楽曲、新人賞)に彼の名前はない。

 知名度では本命とも思えるシーランではなく、実際にノミネートされたのはチャイルディッシュ・ガンビーノ名義で音楽活動をしているマルチ・アーティストのドナルド・グローヴァーで、<年間最優秀アルバム>に『アウェイクン、マイ・ラヴ!』、そして同アルバムからのシングル「レッドボーン」が<年間最優秀レコード>にそれぞれ入っている。2017年を代表するヒット作という意味ではシーランの方がふさわしいと思えるかもしれないが、内容的にはチャイルディッシュ・ガンビーノの方がアート色が強く、【グラミー賞】が目指している、商業的に成功している作品だけではなく“本当にいい作品”を重視する為の改革が実を結んでいるとも言える。

 となると、ブルーノ・マーズのノミネーションの多さ(<年間最優秀アルバム>に『24K・マジック』、<年間最優秀レコード>に「24K・マジック」<年間最優秀楽曲>に「ザッツ・ホワット・アイ・ライク」)が説明しにくくなるのだが、評論家ウケはまあまあでも知名度は抜群という意味ではシーランと同類だが、マーズの音楽はジェームス・ブラウンやプリンスを彷彿とさせるクラシック・ソウルやファンクの流れを汲んでいることから、【グラミー賞】が今後目指していく方向性を体現しているアーティストなのかもしれない。

 エド・シーランの不在により、2018年【グラミー賞】本番で最も注目される対決がジェイ・Z対ケンドリック・ラマーという構図になったことで、史上初めてヒップホップ・アーティスト同士の対決が実現した。二人とも現在の業界を牽引する偉大なラッパーあることは間違いない。そして二人とも【グラミー賞】主要部門での受賞歴がなく、ジェイ・Zに至っては<年間最優秀アルバム>にノミネートされたことすらなかった。2017年を語るに不可欠なのはラマーのアルバムかもしれないが、どちらが受賞したとしてもラップ・カルチャーにとって大きな勝利であることは間違いない。

 <最優秀新人賞>のノミネーションでも【グラミー賞】のヒップホップに対する変化が見られる。カリード(Khalid)とSZAのようなR&Bアーティストと、ジュリア・マイケルズとアレッシア・カーラのようなオルタナティヴ・ポップの新鋭と共に、リル・ウージー・ヴァートがノミネートされたのだ。ジェイ・Zやケンドリック・ラマーがヒップホップの大御所だとすれば、リル・ウージー・ヴァートはヒップホップの未来だ。若く、不良っぽく、主にストリーミングで聴かれている“mumble rapper”(ブツブツ系ラッパー)の代表格で、今までの【グラミー賞】だったら絶対に避けていただろう。彼がノミネートされたことで、【グラミー賞】がようやく現在のラップを認めただけでなく、これからの動きにも対応する構えを見せたと言える。

 フランク・オーシャンが前回の【グラミー賞】を辞退し、今回はドレイクが辞退するなど、今をときめく大物アーティストたちが次々と賞レースから撤退し、2017年も大本命と見られていたビヨンセが再び主要部門での受賞を逃したことから、かつては不動の権威を誇っていた【グラミー賞】の存在意義そのものが問われていた。ヒップホップやR&B界から完全にそっぽを向かれる前に新たな方向性を打ち出した【グラミー賞】の今後に注目したい。


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