J-POPのルーツのひとつであり、モダンフォークを世界に伝えたピーター・ポール&マリーの『イン・ザ・ウインド』

2017年9月22日 / 18:00

これだけはおさえたい洋楽名盤列伝! (okmusic UP's)

1950年代の終わり、アメリカ中に広まったフォーク・リバイバルは、70年代中期に巻き起こったパンクロック・ムーブメントどころの騒ぎではなく、ジャズ、ブルース、ロック、カントリーなど、当時あったポピュラー音楽のあらゆるジャンルに浸透するほどの広がりを見せた。中でも62年にデビューしたピーター・ポール&マリー(以下、PPM)は、ヴォーカル、演奏、ソングライティングに至るまで、他のグループやシンガーを寄せ付けないほどの職人技で、世界中にモダンフォークを広めた。今回紹介する彼らの3rdアルバム『イン・ザ・ウインド』は、当時無名に近かったボブ・ディランの「風に吹かれて」や「くよくよするなよ」をカバーし大ヒットさせただけでなく、名曲がたくさん詰まった真の名盤だ。
J-POPの素となったモダンフォークという音楽

若い人には理解できないかもしれないが、今、60歳以上の人はプロのミュージシャンであっても一般人であっても、おそらく確実にフォークソングの洗礼を受けている。僕はもう60歳だが、フォーク世代というよりはロック世代なので、フォークのブームはもう少し上の世代なのである。僕が小学生の頃だった60年代の日本で流行っていた音楽は、歌謡曲、フォーク、グループサウンズ、エレキ・グループ、ビートルズ、ジャズ(ジャズだけではないが、前述の音楽に当てはまらない洋楽を当時は全部ジャズと呼んでいた気がする)あたりである。僕の親戚のおじさんやいとこのお兄さんが貸してくれるのはモダンフォークのLPレコードかポップスのシングル盤であり、なぜかビートルズではなかった。
キングストン・トリオ、ブラザーズ・フォー、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズなど、モダンフォークという括りで登場したグループやシンガーは、日本の音楽界に大きな影響を与え、フォロワーとして森山良子、高石友也、中川五郎、小室等、フォーク・クルセダーズ、高田渡、遠藤賢司などなど、多くのシンガーやグループを輩出している。彼らの存在が60年代中期からの日本のポピュラー音楽を支えていき、現在のJ-POPへとつながることになるのだから、アメリカにおけるフォーク・リバイバルの力は今からは想像もできないほど大きなものであったのだ。
僕が生まれて初めて買った洋楽のレコードはビージーズの「マサチューセッツ」で、当時はフォークのレコードを買ったつもりだったのだが、実はそれはモダンフォークがお金になるというビージーズの戦略に、まんまとはまってしまっていたのだ。もちろんそれは後になって気付くのだが、同じパターンとしてはマイク真木の「バラが咲いた」(歌謡曲の大御所作曲家・浜口庫之助の作詞作曲)もそうであった。
ピーター・ポール&マリーの抜きん出た巧さ

雨後の筍のように次々にと出てくるモダンフォークのアーティストたちであったが、ある日親戚のおじさんに借りたのがPPMのデビューアルバム『ピーター・ポール&マリー』(‘62)で、このアルバムには既に知っている曲がたくさん入って(日本のフォーク歌手がカバーしていたから)いて、「500マイル」「悲惨な戦争」「レモン・トゥリー」「花はどこへ行った」など、フォークの代表曲を素晴らしいコーラスと巧みな演奏で聴かせていただけに、一気に大ファンになった。ギター2本と歌だけでこれだけのことができるのか!?と、まるでマジックを見ているような不思議な気分になったことを、今でもはっきりと覚えている。
とりあえず、そのおじさんにPPMのアルバムを全部借りて、毎日聴きまくった。2ndアルバムの『ムービング』(‘63)はデビューアルバムと比べると良い曲は少なかったけど、それでも彼らの代表曲の「パフ」(全米チャート2位)が入っていたし「虹とともに消えた恋」やウディ・ガスリーの「わが祖国」が素晴らしい出来であった。
ピーター・ポール&マリーとは

ここで、このグループのことについて少し触れておく。PPMはピーター・ヤーロウ、ポール・ストゥーキー、マリー・トラヴァースの3人組で、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジで音楽活動を始めている。彼らの育ての親はボブ・ディランやジャニス・ジョプリン、そしてザ・バンドのマネージメントをしていたアルバート・グロスマン。彼はアメリカのポピュラー音楽界でジョン・ハモンドやビル・グレアムと並ぶ裏方の仕掛け人だ。
ピーター、ポール、マリーの3人とも、ウディ・ガスリーやピート・シーガーといった偉大なフォークの先達に大きな影響を受けてミュージシャンとなる。偉大な先人たちが体制の監視と弱者への視点を欠かさなかったように、PPMもまた社会派のシンガーとしての主張をしっかり持ったアーティストで、心を打つ歌を聴かせられるプロフェッショナルとなった。ボブ・ディランを別にすれば、PPMは商業的な部分と反体制的な部分を併せ持った、稀有なポピュラー音楽のグループだろう。残念なことに、マリー・トラヴァースは2009年に亡くなっている。
本作『イン・ザ・ウインド』について

話を戻すと、次に聴いたのが本作『イン・ザ・ウインド』(‘63)である。まず、このジャケットに惹かれた。アメリカントラッドに身を包んだ3人の上品で知的な出で立ちは、子どもの目から見ると何とも言えずカッコ良かった。このアルバムをリリースした時点で、既に彼らはアメリカのスターになっており、キング牧師の公民権運動にも参加し、有名なワシントン行進では50万人とも60万人とも言われる民衆の前で歌っているぐらいだ。
本作の収録曲は12曲。目玉はボブ・ディランの「風に吹かれて」「くよくよするなよ」「クイット・ユア・ロウ・ダウン・ウェイズ」の3曲が収められていること。ディラン本人の録音よりPPMのバージョンのほうが好きだという人は多いが、実は僕もそのひとり。3曲とも名演で、特に「くよくよするなよ」は多くのカバーが存在するが、PPMの演奏が最高ではないだろうか。ディランのカバー以外も名曲揃いで、「フレイト・トレイン」「ベリー・ラスト・デイ」「ハッシャ・バイ」「私の試練」「山の上に告げよ」など、PPMを代表する名曲の宝庫で、全曲捨て曲なしの名作に仕上がっている。本作は、全米チャートで1位を獲得し、現在も売れ続けているロングセラーアルバムだ。
なお、本作には珍しくディランの自作の詩が書かれており、これはどちらもアルバート・グロスマンがマネージメントを担当しているだけに実現した奇跡かもしれない。そうそう、7曲目の「スチューボール」はジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」にかなり似ていて、曲作りの際に大きな参考になったのかもしれない。
今の日本でモダンフォークを聴く機会はあまりないだろうが、これを機にぜひ聴いてみてほしい。きっと、新しい発見があると思うよ♪
TEXT:河崎直人
アルバム『In the Wind』
1963年作品


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