Aimer、新たな物語を紡ぎ始めた【Live in 武道館】を振り返る

2017年8月31日 / 20:45

 2017年8月29日、Aimerによる自身初の日本武道館単独公演【Aimer Live in 武道館 “blanc et noir”】が開催された。2011年にデビュー・シングル『六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR』をリリースして彗星の如くシーンに舞い降りたAimerは、謎多きシンガーだった。写真やメディアで顔を出さず、パーソナルなプロフィールもほとんどが非公表。しかしその歌声の魅力はプリミティブであるが故に、彼女のファン層は様々で、武道館に集結した13,000人の観客は若者から高齢者、家族連れまでが入り混じっていた。

 5月にベスト・アルバムを2枚同時リリースし、その2枚のアルバム・タイトルを冠した本公演は、デビューからの約6年間を総括するという意味合いも当然ありつつ、一度自身のキャリアをリセットしてまっさらな白紙から新たに物語を紡ぎ始めるという、未来開拓的な決意や覚悟が感じられるものでもあった。一口に「初の武道館ワンマンを大成功に収めた」では到底言い尽くせないほどに意義深い、メモリアルな一夜だったといえる。

 定刻をやや過ぎた頃、暗転、アリーナ中央のステージにバンド・マスター野間康介を筆頭にサポート・メンバーが登壇。やや間を置いて姿を現したAimerは、ピンスポットに照らし出されると、オープナー「TWINKLE TWINKEL LITTLE STAR」をピアノの伴奏で歌い上げる。続いて披露したのは、ベスト盤には未収録の『ninelie EP』カップリング曲「スピカ」だ。“blanc et noir”というタイトル通り、ベスト・アルバム『blanc』(白)と『noir』(黒)の2面性が本公演の基本コンセプトとなっていて、本編前半に『blanc』収録曲、後半に『noir』収録曲(+1曲の新曲)という2部構成となっていたのだが、この「スピカ」だけはその枠組みから唯一外れたものだったように思う。

 まず驚いたのは、この「スピカ」が始まると同時に会場内のほぼ全ての客電が点灯したこと。続いて、Aimerを囲むように陣取ったバンド・メンバーの床が回転し始め、それについていくようにAimerも360度見渡しながら歌を届けていく。前述した通り、デビュー以降のAimerのスタンスとしては、メディアではもちろんライブのステージでも自身の姿を表出しないというもので、そんな神秘性が彼女の魅力の1つでもあった。そういった背景もあって、冒頭のこの演出は驚きだったし、それと同時に感じたのは、これまで我々リスナーとAimerの間を隔てていた霞が完全に晴れたような、歌い手と聴き手の関係性の変化だ。神秘のベールを脱ぎ捨て、自分自身をさらけ出したうえで歌を届けていく、そんな決意表明とも思える演出に、まさに冒頭で述べた彼女の覚悟が感じられたのだ。“六等星”の夜から始まった物語が、やがて朝を迎え、白昼の中でも輝きを放つスピカ=“一等星”の物語へ。思わずそんな風に彼女の6年間を振り返らずにはいられない幕開けに、胸を熱くしたファンは少なくなかったはず。

 前半の『blanc』パートは、「あなたに出会わなければ」や「星屑ビーナス」、「Re:pray」など、センチメンタリズムの中にぬくもりを見出すバラード・セクションで、バンドの演奏も間や余裕をしっかりとりながら、丁寧に呼吸を合わせていくもの。ライブ・ビューイングが行われている香港、台湾、韓国に向け、中国語と韓国語で語り掛けるMCの一幕と併せて、とても親密度の高いハートフルな前半戦だった。

 数分の転換時間を挟み、『noir』パートは「us」でスタート。Aimerは衣装を前半の白いドレスから黒いドレスへ召し替えていた。そして彼女の周りを光球が舞うという幻想的な演出も相まって、会場は完全に“黒”の世界観に一変。「holLow wORlD」「LAST STARDUST」「Brave Shine」、そして初披露の新曲「花の唄」と、『Fate』シリーズに所縁のある楽曲が続いた後は、『機動戦士ガンダムUC』主題歌であり、Aimerが激情ともいうべき“動”の感情を表現するきっかけとなった楽曲「RE:I AM」へ。このセクションで唯一の新曲となった「花の唄」は、劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』の主題歌で、Kalafinaの生みの親としても知られる梶浦由記がプロデュースを手掛けたもの。スリリングなピアノの旋律と刃物のように鋭く凛とした歌声の調和は、息をするのも躊躇われるほどの緊張感で会場を包みつつ、一方で『blanc』パートに披露されるにふさわしいダイナミズムもまた含んでいた。

 アンコールに応えたAimerは、「武道館の皆さん全員が立ってる姿を見てみたい」と観客を煽り、横揺れのグルーヴで躍らせる「AM02:00」を投下。コンセプチュアルな本編から、今度は会場の一体感を重視したモードへ。続く初お披露目の新曲「ONE」もその流れを継承していて、BPM130ほどのAimer史上最速ビートをカラフルなシンセ・レイヤーが彩るこの曲は、白と黒のコントラストを身上とするAimerの楽曲としては新機軸ともいえる、とにかくポジティブなサウンド・メイクが印象的。虹色のライティング、そしてピョンピョンと飛び跳ねながら高い位置でハンズ・クラップする観客のリアクションも新鮮だった。そんな新曲の光に引き上げられ、とても希望的に鳴らされた印象の強い「六等星の夜」が万感のフィナーレを飾った本公演。「今日は本当にありがとうございました」と深くお辞儀するAimer、立ち上がって賞賛と感謝の拍手を贈る観客、その美しい光景が、初の日本武道館単独公演の意義深さを何よりも饒舌に物語っていた。

Text by Takuto Ueda
Photo by Taku Fujii

◎公演情報
【Aimer Live in 武道館 “blanc et noir”】
日程:2017年8月29日(火)
会場:日本武道館

<セットリスト>
01. TWINKLE TWINKEL LITTLE STAR
02. スピカ
03. あなたに出会わなければ
04. 星屑ビーナス
05. Re:pray
06. カタオモイ
07. March of Time
08. 蝶々結び
09. us
10. holLow wORlD
11. LAST STARDUST
12. Brave Shine
13. 花の唄
14. RE:I AM
15. zero
16. Stars in the rain
-En-
17. AM02:00
18. ONE
19. 六等星の夜

◎リリース情報
New Single『ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.』
2017/10/11 RELEASE
<期間生産限定盤>
SECL-2212 / 1,500円(tax out)
※「Fate/stay night [Heaven's Feel]」描きおろしイラストSPパッケージ
※2018年3月末日までの期間生産限定
<初回生産限定盤(CD+DVD)>
SECL-2209 / 1,500円(tax out)
※DVD:「zero」「歌鳥風月」MUSIC VIDEO収録
<通常盤>
SECL-2211 / 1,250円(tax out)
<完全生産限定盤(ファンクラブ限定盤)>
SEC8-16 / 1,250円(tax out)
※Aimerファンクラブ限定CDジャケット&ブックレット

<トラックリスト>
1. ONE
2. 花の唄
3. 六等星の夜 Magic Blue ver.
4. 糸(※中島みゆきカバー)

◎ツアー情報
【Aimer LIVE TOUR 17/18 “hiver”】
2017/11/16 (木) 埼玉・和光市民文化センター サンアゼリア
2017/11/23 (木祝) 北海道・札幌わくわくホリデーホール
2017/11/26 (日) 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
2017/12/02 (土) 新潟・新潟県民会館
2017/12/08 (金) 岡山・岡山市民会館
2017/12/10 (日) 兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
2017/12/16 (土) 宮城・東京エレクトロンホール宮城
2017/12/17 (日) 群馬・群馬ベイシア文化ホール 大ホール
2017/12/24 (日) 愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
2018/01/14 (日) 長野・レザンホール(塩尻市文化会館)
2018/01/20 (土) 広島・広島上野学園ホール
2018/01/21 (日) 京都・ロームシアター京都 メインホール
2018/01/23 (火) 大阪・フェスティバルホール
2018/01/27 (土) 福岡・福岡サンパレスホテル&ホール
2018/02/21 (水) 東京・NHKホール


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