トレヴァー・ホーンが奏でる“輝かしい未来への憧れ”の扉―― モダンな響きとヒューマンな温もりが同居したサウンドに心沸き立つスタイリッシュな夏の宴

2017年8月24日 / 14:10

 キーワードは「輝かしい未来へのオマージュ」。

 鮮烈な印象を残した前回の公演以来、5年ぶりの来日となるトレヴァー・ホーンが『ビルボードライブ東京』のステージに上がった。

 1979年にバグルスのプロデューサーとして「ラジオ・スターの悲劇」をヒットチャートに送り込み、一躍“時の人”として名を馳せたトレヴァー・ホーン。当時の最先端のテクノロジーを駆使し、斬新な響きとモダンな質感を伴った音作りを提示した彼は、83年にはZTTレコーズを立ち上げるなど、先鋭的なサウンド・クリエイターとして、世紀を跨いで活動を続けてきた。また、ミュージシャンとしてはバグルスのジェフ・ダウンズと共にイエスに参加し、80年に『ドラマ』をリリース。その後の解散に伴いメンバーからは退いたものの、再結成した同グループの『ロンリーハート』(83年)をプロデュースし、復活の重要な役割を担ってきた。他にもABCやマルコム・マクラーレン、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやグレイス・ジョーンズ、さらには来月公演が予定されているアート・オブ・ノイズなど、ハイパーなアーティストを数多く手掛けてきたトレヴァー・ホーン。

 今回のステージは、2人の女性ヴォーカルを含む辣腕揃いの9人体制。メンバーの中にはアルバムをプロデュースしたこともあるゴドリー&クレーム(元10cc)の片割れ、ロル・クレームも。80~90年代にトレヴァーが関わってきたさまざまなアーティストの名曲が矢継ぎ早に演奏され、英国流儀の捻じれたポップ&ロックをコンテンポラリーな響きで披露。会場は麗しいメロディに包まれ、輝かしい未来を想起する“モダン・サウンド”が広がった。

 ステージにはシンセやサンプラーを中心とした電子楽器が並び、浮遊感溢れる音が絹の布のように織り重なっていく。だが、意外だったのは、“テクノ世代”のイメージが強い彼らの演奏が予想以上にダイナミックなバンド・サウンドで、ヒューマンな温もりに満ちていたことだ。

 サンプリングを多用したクールなサウンドをベースとしながらも、ギターやヴォーカルが頻繁にエモーショナルな顔を覗かせる。硬質でプラスティックな感覚が強い音と、ヴァーチャルなテイストが滲む歌詞なのに、観客に届けられる旋律には体温が宿っている。不思議な感覚なのだが、なぜか心地好い。それはきっと、現代のシビアなリアルさとは異なる、一種の“夢”や“憧れ”が込められている音楽だからかもしれない。2010年代の今、ある種の批評として機能する瞬間が感じられる彼の音楽性には、実はディープなフィーリングが溶け込んでいるのではないか――。トレヴァーの音楽が、単なるバブルガム・ミュージックではなく、極めて批評性に富んだモダン・ポップであることが、21世紀になって露になってきたように感じられた。

 ライブはスタイリッシュな印象ながら、英国人的なユーモアも込められた人懐っこい肌ざわりも備えており、観客とアーティストが一体感を心地好く味わうことができる時間が流れていった。また、僕が観たセカンド・ショウの中盤には、共にサマーソニックに出演していたリック・アストリーが飛び入りして、イエスのナンバーを熱唱。観客の盛り上がりは最高潮に達した。もちろん、その前後にはみんなが待ち望んでいた数々のヒット曲もきちんと織り込まれ、終始、楽しさに溢れたエンタテイメントになっていたのも嬉しい。彼らが抱いていた「輝かしい未来へのオマージュ」を垣間見ながら、上質なポップ・ミュージックを満喫することができた。

 トレヴァーが奏でる前衛的でありながらも温もりのあるサウンドは、まさにユニーク。英国流の捻じれたモダン・ポップを堪能するためにも、早い再来日を期待したい。

◎公演情報
【トレヴァー・ホーン】
2017年8月22日(火) – 23(水)※終了
ビルボードライブ東京

Photo: Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。暑さがぶり返してきた8月下旬。夏バテで重たい身体を引きずっている人もいるのでは?こんな時期に楽しみたいのが、北イタリアの瓶内二次発酵ワイン=フランチャコルタ。フランスのシャンパーニュと同じ手法で造られた発泡ワインは、クリーミーな泡と繊細で爽やかなアロマが晩夏にピッタリ。冷製のオードブルや夏野菜のグリル、カペリーニなどと好相性なので、減退した食欲を活性化させてくれる。軽快さと味わい深さが両立したノーブルな液体が喉元を通過していく心地好さは格別。ぜひ、お試しを!


音楽ニュースMUSIC NEWS

カニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマー/ドレイクより勝っていると主張「GOATは一人しかいない」

洋楽2024年3月29日

 現地時間2024年3月28日、カニエ・ウェストことイェーがインスタグラムに投稿し、『ザ・ライフ・オブ・パブロ』に収録されているケンドリック・ラマーとのコラボ曲「No More Parties in L.A.」でケンドリック・ラマーに勝った … 続きを読む

【FUJI ROCK FESTIVAL ’24】ラインナップ第4弾発表、Awich/くるりなど14組の出演決定

J-POP2024年3月29日

 2024年7月26日~28日にかけて新潟県・苗場スキー場にて行われる【FUJI ROCK FESTIVAL ’24】のラインナップ第4弾が発表された。  初日26日に決定したのは、Awich、indigo la End、キング … 続きを読む

ドレスコーズ、新曲「キラー・タンゴ」4月配信リリース&ジャケット公開

J-POP2024年3月29日

 ドレスコーズの最新曲「キラー・タンゴ」が4月10日に配信リリースが決定し、本作のジャケットも公開された。  本楽曲は、MBSドラマフィル枠で放送となるドラマ『奪われた僕たち』の書き下ろし主題歌で、YouTubeのMBSアニメ&ドラマチャン … 続きを読む

サブリナ・カーペンター、テイラー・スウィフトから学んだことや恋愛について語る

洋楽2024年3月29日

 サブリナ・カーペンターが、米コスモポリタンの最新デジタル・カバー・ストーリーで、テイラー・スウィフトと【The Eras Tour】で世界を旅したことから、恋愛(現在俳優のバリー・コーガンと交際している)に関する見解まで、様々なトピックに … 続きを読む

ジョナス・ブルー、ジャパン・ツアーに向けて日本限定AL『トゥギャザー』をリリース

洋楽2024年3月29日

 ジョナス・ブルーが来月に迫った自身最大規模のジャパン・ツアーを記念して日本限定アルバム『トゥギャザー』をリリースした。  サム・フェルトとのユニットEndless Summerによる最新シングルの「Rest Of My Life with … 続きを読む

Willfriends

page top