『恋のウルトラ大作戦』は90年代エンタメをロックで体現した、すかんちのデビュー作

2017年8月2日 / 18:00

『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』 (okmusic UP's)

ROLLYが佐藤研二(ex.マルコシアス・バンプ)と高橋ロジャー和久(ex.X-RAY)とともに結成したバンド、The MANJIが8月3日からアルバム『TRIPLED』のレコ発ツアーを開催。役者やタレントとしての露出の他、ナレーションの仕事もこなすなど(任天堂『スプラトゥーン2』CMのナレーションはROLLYが担当!)、マルチに活動するROLLYだが、やはり彼にはロックスターとしてのスタイルが一番しっくりくる。というわけで、ROLLYを最初に世に送り出したバンド、すかんちをご紹介!
先達へのリスペクトを隠さなかった1990年代

“コピー世代”を自称し、《「僕のようなアニメや漫画をばかり観てきた世代は、パッと浮かんだことにだいたいいつも元ネタがあり、時に嫌になる」という趣旨の発言》を残しているのは映画監督の庵野秀明氏だ(《》はWikipediaからの引用)。実際、2016年、第40回日本アカデミー賞において最優秀作品賞を受賞した『シン・ゴジラ』にしても、観る人が観たらはっきりと元ネタが分かるシーンや演出は多い。というよりも、やや乱暴に言えば、元ネタが分かるシーンをつなぎ合わせて一本の作品に仕上げた感すらある。それは氏の代表作であり、出世作である『新世紀エヴァンゲリオン』にしてもそうで、これは庵野氏の作家性であると同時に、1990年代以降のエンタテインメントの傾向ではあるような気もする。同じ映画というカテゴリで言えば、クエンティン・タランティーノ監督もそうだ。『キル・ビル Vol.1』や『ジャンゴ 繋がれざる者』が分かりやすいと思うが、氏の作品には日本映画やイタリア映画への敬愛がそれと分かるように詰め込まれている。その作風をして“サンプリング映画”とも呼ばれているようで、確かに言い得て妙ではある。単なる模倣に留まることなく、しっかりとした先達へのリスペクトから生まれたオマージュ。この辺は、映画や映像のカルチャーが数世代に渡って連なってきたからこその事象であろうと思われる。
同様の事象を音楽に見出すと、ヒップホップがその最たるものであることは言わずもがな。ていうか、そもそもヒップホップの起源は1970年初期ということだから、むしろヒップホップこそが前述の映画の他、さまざまな文化に影響を与えたのだと思われるが、そこを掘り出すと際限がなくなるし、当コラムは邦楽紹介なので日本の音楽に話題を絞って考えると──やはりリスペクトやオマージュを明確に表す人たち、それを惜しみなく押し出すアーティストが出現してきたは、前述の映画と同じくやはり1990年以降ではなかろうか。“渋谷系”なるカテゴリーがまさにそうで、そう呼ばれたアーティストたちは1960~1970年代のソウルミュージック、1980年代のニューウェイブやギターポップ、ネオアコを中心としつつも幅広い音楽的要素を取り込んできた。その代表格はフリッパーズ・ギターであり、サンプリングを多用した3rdアルバム『DOCTOR HEAD’S WORLD TOWER -ヘッド博士の世界塔-』はそれを象徴する作品であろう。所謂“渋谷系”と言われる人たちはユニットやソロアーティストが多かったのはそれ以前のバンドブームの反動だったのかもしれないが、一方、バンド勢の中にこの時期、先達へのリスペクトやオマージュを表す人たちがいなかったかというと、そんなことはない。話があちらこちら行ってしまったが、ようやく本題に辿り着いた。1990年にメジャーデビューを果たしたすかんちは、ここまで述べてきた1990年代以降のエンタテインメントを体現したロックバンドのひとつであろう。
黄金期のロックミュージックを堂々と鳴らす

デビューアルバム『恋のウルトラ大作戦』からしてリスペクト、オマージュのオンパレードだ。M1「HONEY」、M2「君は窓辺のパントマイム」、M3「恋のT.K.O.」のコーラスワークやブレイクにQueenの影響がアリアリだが、これはまだ序の口。M4「魅惑のYoung Love」は70年代半ばの米国バンド、Angelから受けた多大な影響をまるで隠さない。はっきり言えば、Angelの「that magic touch」を見事に取り込んでいる。M5「ウルトラ・ロケットマン」はLed Zeppelinのエッセンスをどれだけ注入しているのか分からないほどだし、ロックオペラ調でこれもまたQueenの影響が色濃いM6「OK. Baby Joe」を挟み、M7「炎のロックマシーン」ではThe Whoのテイストを発揮。サビメロは「The Kids Are Alright」だろうか。続くドクター田中(Key)作曲のナンバーM8「涙の転校生」ではモータウンを披露したと思ったら、M9「秘密の24時」においてはMott the HoopleやRoy Orbison、M10「恋のショック療法」で再びThe Who、そしてM11「スローソンの小屋」でLed Zeppelinと、ルーツミュージックが明らかにそれと分かるようなかたちで聴こえてくる。M10「恋のショック療法」はThe Who「Amazing Journey」、M11「スローソンの小屋」ではLed Zeppelin「Celebration Day」が色濃い。発売当初はこの辺を指してコピーだとか、パ〇リだとかという声もあったようだが、ここまでやっていれば、これはもうやり切っていると言ってよく、その揶揄は当たらないであろう。ひとつやふたつならコピーできても、ほぼ全編におおいてそんなことができるというのは、先に挙げたバンド、アーティストたちへの愛情を、それが滲み出るほどに抱いていたからに他ならない。また、M4「魅惑のYoung Love」に《僕はマーキュリー》や《僕はジミー・ペイジ》という歌詞があることから、ROLLY(Gu&Vo)が確信犯的にそれをやっていたのも明らかである。隠さなかったのではなく、「どうだ!」と言わんばかりに自身が影響を受けた音楽を打ち出したのだ。
歌詞に見るすかんちならではのオリジナリティー

すかんちがそうした洋楽ロックの先達たちへのオマージュを表しただけのバンドだったかというと、決してそうではない。ヴォーカリゼーションを含めて、そのサウンドは間違いなくリスペクト全開であることは前述の通りだが、その歌詞世界に彼らならではのオリジナリティーが見て取れる。端的に言えば、本来は表に出さすことのない、情けなさや変態性の露呈である。
《バスに乗った 君の 姿を/見るたびに僕は たまらない/だけど君は恋人がいた/人も 羨む 二人だった》(M3「恋のT.K.O.」)。
《ナルシスト 最高潮/僕はマーキュリー/バスを降りた瞬間に/大笑いしてたね》《晴れた日の日曜日 君と歩いた/まるで僕はジミー・ペイジ/君は呆れて/駆け足で逃げる君に/ギター抱えてポーズ》(M4「魅惑のYoung Love」)。
 《受話器をもって ふるえてる/呼びだし音が鳴る前に/思わず切ってしまった/そんな覚えがあるだろう/恋のセリフ 復唱して/あの娘のダイヤル レッツゴー!》(M10「恋のショック療法」)。
この辺が情けなさの発露。以下が変態性である。
《目隠しをされたまま/さらわれてきた女の娘/栗色の長い髪と/怯えた瞳が僕を震わせる Touch Me》《地下室の閉じ込めて/いろんな服を着せてみましょう/きっと君に似合うはずさ/僕の選んだ赤い靴を履いて Touch Me》(M6「OK. Baby Joe」)。
《ガラスに浮かんだ/気になる君のプロポーション/名前も知らない推理小説? 秘密の24》《誰にも教えない教えない/覗いているなんて言えないよ》(M9「秘密の24時」)。
まぁ、The Beatlesにも、それこそElvis Presleyにもロストラブソングはあるし、情けない男の姿を描いた歌詞もある。また、ハードロックやヘヴィメタルにはおどろおどろしい歌詞もあると聞く。しかしながら、この時期の日本のロックでここまであからさまに、しかも朗々とこれらの世界を綴ったバンドは珍しかったと思う(ユニコーンの世界観はそれに近かったが、サラリーマンの悲哀をはらんでいたり、恋愛に特化したものではなかった)。最近ではゴールデンボンバーの「女々しくて」や、バンド名からしてその姿勢を隠さない忘れらんねぇよがいるが、この点ですかんちは大凡20年は先を行っていた。そのバンド名(皆まで言わなくとも分かるよね?)と、ROLLYのキャラクター、また小畑ポンプ(Dr)のルックスなどから色物的に見られる向きもあったすかんちだが、日本のロックバンドが現在のように真の意味で多様性を持ち得るきっかけとなったバンドのひとつかもしれない。shima-chang(Ba)が事故による脳挫傷、脳内出血からの障害で現在、車椅子の生活をしながらリハビリを行なっている上、2014年に小川文明(Key)に逝去し、残念ながら当時のメンバーでの復活は叶わぬこととなったが、その圧倒的な演奏力、パフォーマンスの確かさ、そしてその音楽性の素晴らしさからして、今まで以上に再評価されてしかるべきバンドと断言しておく。
TEXT:帆苅智之
アルバム『恋のウルトラ大作戦』
1990年発表作品

<収録曲>

1.HONEY

2.君は窓辺のパントマイム

3.恋のT.K.O.

4.魅惑のYoung Love

5.ウルトラ・ロケットマン

6.OK, Baby Joe

7.炎のロックマシーン

8.涙の転校生

9.秘密の24時

10.恋のショック療法

11.スローソンの小屋


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