20年の時を経て見直される“OK/NOTOK”の境界 レディオヘッド『OK コンピューター』記念盤(Album Review)

2017年6月26日 / 20:30

 レディオヘッド3作目のアルバムであり、ロック史上に深い爪痕を残した名盤『OK コンピューター』は、1997年5月、世界に先駆けてまず日本でリリースされた(本国UKのリリースは6月)。それからちょうど20年の歳月を経て、同時期のシングル・カップリング曲、そして3曲の未発表曲も収録した『OK コンピューター OKNOTOK 1997 – 2017』が、この2017年6月23日に世界同時リリースされた。

 アルバム曲やカップリング曲はすべてオリジナルのテープからリマスターが施され、生々しいアコースティック・ギターの響きや繊細なエレクトロニック・ノイズ、トム・ヨークによるファルセット・ボイスの震えに至るまで、すべてがくっきりと浮かび上がる素晴らしい音源となっている。

 それまで、ナイーヴな心持ちをロック・ソングとして丹念に紡ぎ上げていたレディオヘッドは、『OK コンピューター』で隠されていた牙を剥くように攻撃的な姿勢を明らかにした。機械のように正確で冷徹な視線を世界に投げかけ、徹頭徹尾斬新なロック・アルバムとして完成した『OK コンピューター』は、シーンに大きな衝撃をもたらすことになる。

 1990年代UKロックのムーブメントとして盛り上がっていたブリット・ポップは、“クール・ブリタニア”という風潮を生みながら好景気の兆しを見せる国の情勢と結びつき、ときには政治利用される形で、次第にムーブメントとしての収束を迎えていった。そんなとき、浮ついたムーブメントの残り香と世界に向けて放たれた『OK コンピューター』は、冷や水どころか辺り一面を焼け野原にしてしまうほどのインパクトを誇っていたのである。

 ところが20年後の『OK コンピューター OKNOTOK 1997 – 2017』では、当時のカップリング曲もまとめてリマスターを施し、また未発表曲を加えることで、1997年当時のシーンにインパクトをもたらしたはずの『OK コンピューター』の選曲が、つまり“OK”と“NOT OK”の境界が無効化されている。リスナーを決して懐古趣味に走らせないところが、何ともレディオヘッドらしい。

 『OK コンピューター OKNOTOK 1997 – 2017』のディスク2は、新たにミュージック・ビデオも制作されたかつての未発表曲「I Promise」や「Man of War」、そしてファンの間では長らく音源化が待ち望まれていた「Lift」で幕を開ける。いずれも、セカンド作『ザ・ベンズ』から『OK コンピューター』へと至る過渡期にライブ披露されていたナンバーで、アルバム曲や同時期のシングル・カップリング曲にも見劣りしない楽曲群である。『OK コンピューター』の選曲は、あくまでも1997年当時にこそ最大の効力を発揮するものであり、20年後の今日においては意味が変わっていて然るべきものなのだ。

 なお、『OK コンピューター OKNOTOK 1997 – 2017』は、トム・ヨークの長年のパートナーでありながら2015年に離別し、2016年12月に病で他界した、レイチェル・オーウェンに捧げられている。《僕はもう逃げ出さない、約束するよ》と歌われる「I Promise」に始まり、キッチンで夕食を作るレイチェルの傍でトムがホーム・レコーディングした様子が伝わる「How I Made Millions」(バンドは当時、敢えてこのバージョンをカップリング曲に採用した)がフィナーレを飾るディスク2は、20年の歳月を経て“OK”と“NOT OK”の境界を越えてきた楽曲たちによる、もうひとつの名盤と言えるだろう。(Text: 小池宏和)

◎リリース情報
『OK コンピューター OKNOTOK 1997 – 2017』
2017/06/23 / RELEASE
<国内盤>(2CD)XLCDJP868 / 2,200円(tax out.)
リマスター音源
国内盤のみ高音質UHQCD仕様
歌詞対訳+解説書付


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