「人間は皆、生まれつきクリエイティブだ」世界中の新しい音が満ち溢れる「ボンクリ・フェス」芸劇で初開催

2017年5月13日 / 12:00

 5月4日朝、東京芸術劇場アトリウムスペースにホルンのファンファーレが響き渡り、新しい音楽フェスが産声をあげた。世界的に活躍する作曲家、藤倉大をアーティスティック・ディレクターに迎え、0歳から大人まで「世界中の新しい音」をまる一日楽しめる。

 「ボーン・クリエイティヴ」フェスティバル。略して「ボンクリ」フェス。「人間は皆、生まれつきクリエイティブだ」という意味だ。藤倉大が、福島にて子供達に自由な作曲教室を継続して開催みて、全ての人間は子供の頃「新しい音楽」「新しい音」「変な音」が好きだったと気づいたという。その子供のままのクリエイティビティを大人になっても持ち続けている作品を一日中楽しめる、「新しい音楽」の祭典だ。

 朝11時から連続して行われた有料のワークショップ・コンサートはペルー音楽、ノルウェー音楽、三味線など幅広く世界の音を感じられるステージだ。無料のコンサートも充実しており、地下一階に位置するアトリウムロワー広場内スペースでは12時以降4つのミニ・コンサートが進行。ホルンやギター、トロンボーン、ピッコロという西洋楽器に加え三味線、笙、篳篥の奏者が登場。現代に生きる作曲家たちによる「変な音」「面白い音」「カッコいい音」で高い天井までの空間をいっぱいに満たし、ステージの周囲のみならず1階ロビーでも、たくさんの人たちがリラックスした表情で音に浸っていたのが印象深い。

 そして、数年前から福島県相馬市で開催されてきた「作曲教室」を、初めて東京で開催。まだまだ親御さんに甘えたい盛りの小さなお子さんから、中高生まで幅広い年齢層が参加した。演奏家がデモンストレーションする特殊奏法を聴き、その場で「好きな音」を楽譜にすると、演奏家が目の前で実演してくれる。今回は三味線奏者の本條秀慈郎氏が講師として登場。大人の力を借りず、子供達自身が渾身の思いを込めて繰り出す超絶技巧満載の楽譜が本條氏の手によって「音楽」になる瞬間、子供達の真剣な眼差しと静かな興奮が会場いっぱいに広がった、稀有な作曲教室だった。

 夜に行われたスペシャル・コンサートは、プログラムではデヴィッド・シルヴィアン&藤倉大の共作から始まり、トライアングル3名による坂本龍一の作品、武満徹「秋庭歌」とそのライブリミックス、ブルーノ・マデルナ、大友良英の新作世界初演など、盛りだくさんの内容。トリは藤倉大のフルート協奏曲(アンサンブル版)がフルート奏者クレア・チェイスにより日本初演され、上から下まで音域の異なる様々な「フルート」持ち替えが生み出す、多彩な音の数々を楽しむことができた。

 前日に行われたプレ・イベント【藤倉大×茂木健一郎対談『脳を“ボンクリ”で解き放て!』】では、茂木氏の「一般的に、現代音楽はエントリーコストや認知的負荷が高いと思われているよね。(現代音楽苦手な人と)なんかうまい会話の仕方ってないのかな」「うーん、試す、っていうのがいいかもしれませんね、25分くらい。そんな豪邸じゃないけど、こういう家に住んでるんで、ちょっとお茶でもしていきませんかと。途中で帰ってくれてもいいんで(笑)」と比喩を交えて語り、また「『現代音楽』って(区別して)言いますけど、古い音楽もその時は『現代音楽』だったわけです」「今流行っているポップミュージックとかでノイズが入っていたりしますけど、そういうのって『現代音楽』では1950年とか60年代に流行っていたことが、今商品化されているんですけどね」と漏らす場面もあった。

 コンテンポラリーという意味での『現代音楽』のコンサートそのものは、もしかしたら特段珍しいものではないのかもしれない。ただ、まる一日、朝から晩まで、その音の世界観にどっぷり浸かれる機会はなかなか得られない。生まれながらにして誰もが持っている、新しくて、面白くて、変なものへの好奇心に突き動かされる藤倉大というアーティスティック・ディレクターを迎えたからこそ実現した音楽祭。日が暮れる頃にはすっかり「ああこの音こそが『今』聴くのに相応しい」と腑に落ちる、そんな稀有な「一日」が、来年も開催されることを楽しみにしたい。text by yokano

◎開催概要【ボンクリ・フェス2017“Born Creative”Festival2017 スペシャル・コンサート】
2017年5月4日(木・祝) 17:30開演
東京芸術劇場コンサートホール
アーティスティック・ディレクター:藤倉大
出演:アンサンブル・ノマド(指揮:佐藤紀雄)
   伶楽舎(雅楽アンサンブル)
   クレア・チェイス(フルート)
   ヤン・バング(エレクトロニクス)
   ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)
   小林沙羅(ソプラノ)
   大友良英(ターンテーブル)
   藤倉大(エレクトロニクス)
   サウンドデザイン:永見竜生[Nagie]
プログラム:デヴィッド・シルヴィアン&藤倉大/Five Lines(ライブ版世界初演)
The Last Days of December (ライブ版世界初演)
坂本龍一 / tri (ライブ版世界初演)
武満徹 / 『秋庭歌一具』より 第4曲「秋庭歌」
「秋庭歌」ライブ・リミックス
ブルーノ・マデルナ/ひとつの衛星のためのセレナータ
大友良英/みらい(新作世界初演)
坂本龍一(藤倉大編曲)/thatness and thereness (アンサンブル版世界初演)
藤倉大/フルート協奏曲 (アンサンブル版日本初演)
(C)2 FaithCompany

【ボンクリ・フェス2017 ”Born Creative” Festival2017 デイタイム・プログラム】
2017年5月4日(木・祝)11:00~
東京芸術劇場館内各所
アトリウムコンサート
10:50-10:55福川伸陽(ホルン)
12:00-12:30福川伸陽(ホルン)
13:30-14:00本條秀慈郎(三味線)、伶楽舎(雅楽)
15:00-15:30アンサンブル・ノマド、伶楽舎(雅楽)
16:30-17:00村治奏一(ギター)
17:05-17:10福川伸陽(ホルン)

ワークショップ・コンサート
11:00~「ポーリン・オリヴェロスの部屋」クレア・チェイス
12:30~「ペルー音楽の部屋」イルマ・オスノ(協力:笹久保伸)
14:00~「ノルウェーの部屋」ヤン・バング&ニルス・ペッター・モルヴェル
15:30~「三味線の部屋」本條秀慈郎
(C)2 FaithCompany

【関連企画エル・システマ作曲教室 自分が好きな「音」を見つけよう! 】
2017年5月4日(木・祝)11:00~13:00
東京芸術劇場リハーサルルームL
講師:蒲池愛、中川俊郎、本條秀慈郎


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