ひとりぼっちの純喫茶でぼんやり聴きたい5曲

2017年4月17日 / 18:00

「LEMON TEA」(シーナ&ロケッツ)の12" Single, Limited Editio (okmusic UP's)

このコーナーに真面目に目を通していらっしゃる方がこの世にどのくらい存在するのか今ひとつ掴み兼ねるところですが、大体お察しの通り、前置きがやたら長いのが私です。業界用語でいうところのリード、落語でいうところのマクラというやつです。なぜ毎回ここでダラダラこんなに文章をこねくり回しているのかというと、このくだりを書きながらテーマを考えているからです。今日も今日とて1杯300円のコーヒーをすすりながらうんうん悩んでいたのですが、歌人の枡野浩一さんの「人間のつくるすべての食べ物の中でいちばんババロアが好き」という一句が視界に入ったので、今回は純喫茶にありそうなメニュー縛りの5曲にします。みんな南阿佐ヶ谷の枡野書店に行くといいよ、ババロア美味しいよ。

1. 「LEMON TEA」(’79)/シーナ&ロケッツ
「君みたいな女の子がロックやってるの、おじさん嬉しいな」の呪縛をブーツとハスキーなシャウトで木っ端微塵に吹き飛ばすシーナさんが亡くなられて早2年。笑ってしまうほどに露骨なエロスの暗喩がだくだくと展開される歌詞を、とびっきりドライに、クールに、そしてキュートに歌い上げ、いやらしさを払拭しながらも最高にグラマラスなシーナさんの勇姿には、“セクシー”という一語の万能さを盲信するほかありませんでした。今でもCDを聴くたびに落涙してしまうのですが、デビュー時から変わらぬ8ビートのロックを放熱しながら転がり続ける、アーシーなシナロケのステージは健在です。

2. 「ショートケーキのサンバ」(’98)/小島麻由美
“ありふれた生活の中に常にあるスペシャル感”という矛盾を、スポンジとクリームと苺というシンプルな構成でものの見事に体現するショートケーキ。かわいい顔して日常と非日常の橋渡しさらりとやってのけるショートケーキ。それをこっそり独り占めしてしまおうという内容なのですが、NHK『みんなのうた』に紛れ込んでも違和感のない普遍的でポップなテーマを、不意に挿入される《香港生まれのカプセルと一緒に夕方には私のお腹の中だよ。》というフレーズが喚起する猥雑で怪しげなイメージと、鼻にかかったもったいぶったような歌声がすっぱり裏切る小気味よさがたまりません。文字通り軽快にサンバのリズムを刻み続けるパーカッションに絡むオルガンにフルートに…といった楽器隊の複雑な贅沢さも“大人ならでは”といった塩梅で、歳をとればとるほど味わい深くなります。

3. 「カプチーノ」(’99)/ともさかりえ
宇多田ヒカルのソニー移籍で「椎名林檎とのEMIガールズはどうなってしまうんだ」と驚愕した方も多かったのですが、実はともさかりえと椎名林檎が昵懇の仲で、「カプチーノ」をはじめとして数曲プロデュースしているというのを知っているのは…もうアラサー以上になるのでしょうか。ほのかなエロスを醸し出す歌詞の中で浮き彫りになる、キュートネスの皮を被った女性ならではの葛藤。恋に耽溺するのではなく、あくまでパートナーと拮抗する仲でありたいという真摯な胸中を、ソフトロックのアレンジとともさかりえの鼻歌のようなヴォーカルでふわっとポップスに昇華する妙。その影でエレキギターとドラムが淡々と同じリズムで無言の駆け引きを続けている構図に差し込まれるホーン隊の華やかさにぼーっとしていると原稿がなったく捗りません。

4. 「コーヒーピープル」(’16)/TAMTAM
ダブステップ、ベースミュージックをフィジカルにパフォーマンスするバンドからひと皮もふた皮も剥けたTAMTAMが2016年に発表したアルバム『NEWPOESY』に収録されている R&Bナンバーです。ステップを踏む前にじっと聴き入ってしまうラテンのリズム、ひやりとした温度のまま機能美的に旋回するギターにヒリヒリと焦げ付くようなキーボード、悩まし気でどこか虚ろながらピンと張り詰めた糸のようにタフなヴォーカル。ブラジルもクラブミュージックも潤沢に飲み込みながらも、孤独な者同士が視線を合わすことなく踊るような、いい意味で力みのないこの曲は、周囲の雑音をシャットアウトして聴き込んでもよし、作業中に聴き流してもよしと、シンプルなふりをして多面的な輝きを秘めています。

5. 「MILK TEA」/Plus-Tech Squeeze Box(’00)
『ユーリ!!! on ICE』サントラへの参加も記憶に新しい“マッドサイエンティストオブサンプリング”ハヤシベトモノリとワキヤタケシによるフューチャーポップユニットです。収録アルバム『FAKE VOX』の“ FAKE”というワードをロケットランチャー代わりにシンセポップやギターポップやカントリーの境目を息をつく暇もなくぶち破り、一曲一曲がコンセプチュアルでありながらもあまりの情報量の膨大さに白目を剥きながら、カラフルでハピネスな空想の異空間に逃避したくなる名作にして問題作の後半に登場する「MILK TEA」は、当時のヴォーカルのカマダジュンコの無重力の発声と、ミドルテンポでパステルカラーのテクノポップサウンドが手を握って“退屈な時間を抜け出そう!(?)”と多幸感しかない国へ手を引いて連れていってくれるような一曲。 ハヤシベトモノリ曰く「無重力の宇宙船の中でミルクティーを飲んでるイメージ」とのことですが、本当にそんな心穏やかな日々に溺れていたいものです…。


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