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現代におけるフラメンコ・ギターの最高峰といえば、真っ先にビセンテ・アミーゴの名前が挙げられるのではないだろうか。巨匠パコ・デ・ルシアと出会ってからギターにのめり込んだ彼は、いつしかスペインにおけるトップの座へ到達していた。
とはいえ、ビセンテの音楽はトラディショナルなフラメンコだけを追究しているわけではない。出世作となった『イデアの街で』(2000年)ではバンド・サウンドを取り入れて新しい風を吹き込んだし、『音の瞬間』(2005年)におけるギターの多重録音も斬新だった。『パセオ・デ・グラシア』(2009年)ではエレクトリック・ギターを大胆に導入したのも記憶に新しいし、前作『ティエラ』(2013年)では元ダイアー・ストレイツのガイ・フレッチャーをプロデューサーに迎えてロンドン録音を行った。いわば、フラメンコを土台にしたフュージョン・ミュージックを作り続けてきたといっていいだろう。
4年ぶりの新作『メモリア・デ・ロス・センティドス』は、そういった流れでいえば非常に異色作である。というのも、これまでにないほどに、トラディショナル・サイドへ向かった作品だからだ。フラメンコの本場コルドバへ赴き、地元のミュージシャンを束ねて本格的なフラメンコを演奏している。とはいっても、すべてビセンテの手によるオリジナル曲だし、どこかまろやかで聴きやすいギターの音色は彼ならではの味わい。加えて、ポティート、エル・ペレ、ファルキートといった素晴らしいカンテ(歌手)たちが華を添え、グッとドラマティックな演出をしているのも聴きどころだろう。
最大のクライマックスは、やはりラストを飾る「鎮魂歌(レクイエム)」だろう。この曲は、2014年に惜しまれつつ亡くなった師匠のパコ・デ・ルシアに捧げたもので、非常にメランコリックな一曲。ニーニャ・パストーリ、アルカンジェル、ミゲル・ボヴェダ、ラファエル・デ・ウトレラ、ペドロ・エル・グラナイーノといった錚々たる歌い手たちが次々と現れては素晴らしい歌声を聴かせるのだが、その合間からビセンテの美しいギターの爪弾きが効果的に挿入されていく。まさに至福の9分半なのだ。
本作はたしかに、ビセンテ・アミーゴの作品ではもっともオーソドックスなフラメンコ・アルバムの体裁であるのかもしれない。しかし、その内容は完全に彼独自のオリジナルであり、そこへ行き着くまでに様々な実験と冒険を繰り返したこともあって、非常に深みも感じさせる。まさに本領発揮の傑作といえるだろう。
Text: 栗本 斉
◎リリース情報
『メモリア・デ・ロス・センティドス』
ビセンテ・アミーゴ
2017/03/22 RELEASE
2,592円(plus tax)
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