ケンドリックら豪華ゲストとともに、超人ベーシストの素顔の歌心を表現。サンダーキャット『ドランク』(Album Review)

2017年2月24日 / 18:30

 近年では、フライング・ロータスのアルバム群やケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』、カマシ・ワシントン『The Epic』といった時代を象徴する作品の数々に、超人的技巧のベース・プレイを持ち込んでいることですっかりお馴染みになった、サンダーキャットことステファン・ブルーナー。ロック好きなリスナーの間ではむしろ、21世紀に入って暫くライヴに明け暮れていたスーサイダル・テンデンシーズの元メンバーであり、再録アルバム『No Mercy Fool!!/The Suicidal Family』や『13』にも貢献したベーシスト、と言った方が通りが良いかもしれない。

 ジャズやR&Bからビート/ヒップホップ、メタル/ハードコアに至るまでマルチにこなすベース奏者でありながら、サンダーキャットは独自のポップ・ミュージック観と、甘くソウルフルな歌声を持つアーティストでもあった。2010年代に入り、盟友フライング・ロータスがサンダーキャットのより幅広いミュージシャンシップを知らしめるべく、自らのレーベル=ブレインフィーダーを通してバックアップ。ソロ名義アルバムをリリースしてきた。

 そういうわけで、『The Golden Age of Apocalypse』(2011)や『Apocalypse』(2013)は、サンダーキャットの歌とベース・プレイ、そしてフライング・ロータスの緻密で野心的なプロダクションが織り成す、現代型ビート/フュージョンといった印象があったのだが、2015年のEP『The Beyond/Where the Giant Roam』あたりから作品の表情を変えてきた。フライローのビートが後退することで、サンダーキャットのソングライティングから立ち上る個性が際立ってきたのだ。今回のニュー・アルバムは、その真骨頂と言えるだろう。

 まず驚かされたのが、先行して公開された楽曲「Show You the Way」だ。マイケル・マクドナルド&ケニー・ロギンスという、70年代終盤に「What a Fool Believes」を全米ナンバー1へと送り込んだビッグ・ネーム2人が招かれ、陶酔感溢れるソフト・ロック/AORをデュエットしているのである。今回のアルバムはタイトルどおりに陶酔感/酩酊感をテーマにしているのだが、サイケ・ポップからAOR、エレポップまで、酔いどれ感覚で自由に時空を飛び回る、サンダーキャットの脳内トリップ作品と化した。

 アルバム序盤の「Captain Stupido」や「Uh Uh」のように、変幻自在の凄まじいベース・プレイを鳴り響かせる楽曲も含まれてはいるものの、サンダーキャットのルーツを垣間見せるような作曲と歌心がムードを形作ってゆく。《神よ、テクノロジーをありがとう。こんなふうに自分たちの思いをツイートできなかったらどうする?》と現代を歌う白昼夢のようなポップ・チューン「Bus in These Streets」があれば、レトロなシンセサウンドに乗って子供のようにイマジネーションを飛翔させる「Jameel’s Space Ride」もある。《誰だって一人きりで飲みたくはないさ》と寂しげに歌われる「Walk on By」に、ケンドリック・ラマーががっつりとラップで付き合っているさまには、失礼だけれどちょっと笑ってしまった。

 イマジネーションを膨らませたり、童心に帰ったり、素直な心情を吐露したり。『Drunk』はまさに、アルコールの力を音楽に置き換えて見せるような作品になった。“現代を代表する超人ベーシスト”のレッテルが付き纏う今のサンダーキャットだからこそ、こんなふうに一人の人間でしかない、素の表情を描く作業が必要だったのかも知れない。そして言うまでもなく、その素顔はかつてないほどチャーミングなのだ。(Text: 小池宏和)

◎リリース情報
アルバム『ドランク』
サンダーキャット
2017/02/24 RELEASE
2,200円(plus tax)
初回限定生産盤:スリーブケース付き
国内盤CD:ボーナス・トラック追加収録/解説書/英詞・歌詞対訳封入


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