クイーンをイギリスの国民的ロックスターへと押し上げた、ロック史に残る名盤『オペラ座の夜』

2016年8月19日 / 18:00

Queen『A Night at the Opera』のジャケット写真 (okmusic UP's)

クラシック音楽の影響を感じさせるブリティッシュロッカーは少なくない。しかし、オペラのメロディーや複雑なコーラスワークを取り入れながらも、キャッチーなサウンドを提示したグループはクイーンしかいない。デビュー当初はどの国よりも日本での人気が高かったが、本作『オペラ座の夜(原題:A Night at the Opera)』で見事に全英1位を獲得、世界的なロックバンドとして認知されることになる。今では70年代のブリティッシュロックを代表するアルバムの一枚として、ロック史に刻まれている。

70年代初頭に起こったグラムロックのブーム
70年代初頭、ど派手なメイクとエキセントリックな衣装に身を包んだ、デビッド・ボウイやマーク・ボラン(Tレックス)などの一群のミュージシャンたちが登場した。彼らはグラムロック(1)やグリッターロックと呼ばれ、個々の音楽性はまったく異なっていたものの、外見に共通性があったために同類として扱われたようだ。彼らが手本にしたのは、すでに世界的な人気があったアメリカ人ミュージシャンのアリス・クーパーであろう。僕が中学生の頃、アリス・クーパーのLP『スクールズ・アウト』(‘72)では、レコード盤が紙製のパンティに包まれていた。何にも知らず、買って帰って開封した時の驚きは、今でもはっきり覚えている。
他にも、モット・ザ・フープル、ロキシー・ミュージック、ニューヨーク・ドールズなど、グラムロッカーが次々と現れ、グラムロックのブームは3〜4年の間ではあったが、確実に世界的な市民権を得た時期があったのである。
70年代中期、パンクロックが登場してからは急速に廃れていったグラムロックだが、80年代に入ってから復活の兆しが見られ、海外ではアダム・アント、ニナ・ハーゲン、ボーイ・ジョージらに引き継がれ、日本においてはビジュアル系ロックとして独自の進化を遂げることになった。

クイーンのデビュー
グラムロック全盛期に、アルバム『戦慄の王女(原題:Queen)』(‘73)でデビューしたのがクイーンであった。当時は音楽雑誌の『ミュージックライフ』にグラビアがしょっちゅう掲載され、“ハンサム揃いの正統派ハードロッカー”みたいなコピーで紹介されていたから、新しいグラムロックのミュージシャンとして聴いていたリスナーが少なくなかった。先ほども述べたように、グラムロックという呼び名は音楽性ではなく、衣装や化粧による同類性によるものであるので、メンバーのフレディ・マーキュリーの醸し出すグラマラスな雰囲気から、グラムロッカーとみられることも不思議ではなかったのである。
アイドル的な売り出し方というのもあって、本国よりも最初に大きな人気が出たのは日本やアメリカであった。特に日本での人気は爆発的であったと僕は記憶しているが、2枚目の『クイーン II』(‘74)までは、独特の多声コーラスや練り上げられた楽曲群の魅力は感じられるものの、個人的にはレッド・ツェッペリンを範とするブリティッシュハードロック・グループのひとつに過ぎなかったという気もする(ファンの方、すみません)。

クイーンの魅力
クイーンの魅力と言えば、キャッチーなメロディーとドラマチックなストーリ性を持ったブライアン・メイのメタリックなギターワークに尽きると思う。どんなに複雑な構成であっても、楽曲をすっきりと分かりやすくまとめる技術がある。そういう意味ではハードロック+ポップスグループ的な要素も併せ持っているのだが、そこにメイのギターが加わることで確かなロックフィールを感じる。もちろん、“グラマラス”なフレディ・マーキュリーの存在は大きく、ミック・ジャガーやロバート・プラントなどに代表されるブリティッシュロック界独特のカリスマ性がある。
これらのクイーン独特の音楽性が爆発したのが、続く3rd『シアー・ハート・アタック』(‘74)である。このアルバムの完成度は高く、今回紹介する4th『オペラ座の夜』(’75)と甲乙付け難い出来栄えになっている。

クイーンの個性を確立した「キラー・クイーン」
『シアー・ハート・アタック』に収録された大ヒット曲「キラー・クイーン」は、フレディ・マーキュリーのソングライターとしての才能、そしてブライアン・メイのメタリックでドラマチックなギターワーク、完成された多重コーラス録音など、グループとしてのオリジナリティーが存分に発揮された秀逸なナンバーとなった。果たして新作でこの曲を超える楽曲が収録できるのか、チャートで全英2位まで上がった前作のレベルを維持できるのか…このあたりがクイーンの将来を左右するほどの課題であった。

本作『オペラ座の夜』について
そして75年、クイーンの4th『オペラ座の夜』がリリースされた。蓋を開けてみれば、内容は圧倒的な充実度とキャッチーさがあり、前作をしのぐ勢いでチャートを急上昇、気付けば初の全英1位に躍り出ていたのである。加えて「キラー・クイーン」以上の完成度を誇る楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」(2)を収録、この曲は全英シングルチャートでは9週間にわたって1位を独走、アメリカでも初のミリオンセラーヒットとなった。
本作に収録された楽曲群は、ブリティッシュハードロックにとどまらず、オペラのロック仕様(「ボヘミアン・ラプソディ」)を軸に、ポップスやジャズ、そしてフォークロック的な作品などを混じえ、クイーンのファン層を大幅に広げる結果となった。本作の成功は1stと2ndが好きなファンを裏切ることになったかもしれないが、世界を舞台に活躍する大グループとなるためには避けて通れない必要不可欠な変革でもあった。
本作『オペラ座の夜』を聴いたことのないブリティッシュロック・ファンが存在するかどうかは分からないが、まだ未体験の人がいるなら、ぜひ聴いてみてほしい。

『オペラ座の夜』以降の活動
本作リリース以降、クイーンは大ヒットアルバムを連発する。パンクロック旋風が吹き荒れた70年代中期以降も売れ続け、磨きをかけたポップロック路線で突き進むことになる。「伝説のチャンピオン」や「ウイ・ウィル・ロック・ユー」などの大ヒットを継続してリリース、その勢いで80年代中頃までは順風満帆の活動を行なっている。その後、メンバー同士の確執などがあり、クイーンとしての活動は激減、91年にフレディ・マーキュリーがエイズによって死去、オリジナルメンバーでの活動はできなくなった。

31年振りの来日公演
今年の9月、日本武道館で3日間にわたって31年振りの日本公演が予定されている。故フレディ・マーキュリー生誕70年、没後25年という節目の年だけに、熱いライヴが繰り広げられるのは間違いないだろう。オリジナルメンバーはブライアン・メイとロジャー・テイラーだけであるが、ファンにとって嬉しい来日であることは間違いない。
(1) グラムロック

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF

(2) ボヘミアン・ラプソディ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%98%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%97%E3%82%BD%E3%83%87%E3%82%A3


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