パンクロックに日本的文脈を注入したTHE MODSのデビュー作『FIGHT OR FLIGHT』

2015年10月21日 / 18:00

THE MODS『FIGHT OR FLIGHT』のジャケット写真 (okmusic UP's)

この『FIGHT OR FLIGHT』の原稿を作成するにあたってTHE MODSのディスコグラフィーを調べていて驚いた。『FIGHT OR FLIGHT』がリリースされた1981年以降、彼らはほぼ毎年オリジナルアルバムを発表し続けているのだ。1994年、1997年、2002年など数年発売していない年もあるが、その年には映像作品やライヴ盤を出すなど、デビュー以来、何も動きがなかった年がないというのは驚異的ですらある。『FIGHT OR FLIGHT』に引っ掻ければ、間違いなく“FIGHT”し続けてきたバンドと言える。改めて言うことでもないが、すごいバンドだ。

1970年後半にセックス・ピストルズやザ・クラッシュ等がけん引するかたちで世界的なムーブメントを巻き起こしたパンクロック。当初このジャンルが内包していたエキセントリックなメッセージ性は徐々に薄まっていったものの、その反権力、反権威の姿勢は損なわれることなく、メロディックハードコア、エモーショナルハードコアに至るまで今もなお進化、深化し続けるR&Rである。日本ではアナーキーやザ・スターリン、ラフィン・ノーズらが、いち早く海外のパンクロックの洗礼を受けたバンドの代表格であるが、ピストルズよりも早く活動していた村八分は、ピストルズを聴いたギタリストのCharに「これ、村八分と一緒じゃん」と言われたというエピソードがあったり、1970年初頭からラディカルなメッセージ性を露呈していた頭脳警察もパンクロックに分類されるかも…という声があったりするので、その始祖を位置付けるのはなかなか難しかったりするが、THE MODSも間違いなくそのひとつで、早くからパンクのアテチュードを貫いてきたバンドである。
THE MODSの結成は1974年。当初は“THE MOZZ”と名乗っており、所謂“めんたいロック”と呼ばれるバンド群のひとつであった。“めんたいロック”とは当時、福岡を拠点に活動していたサンハウス、シーナ&ロケッツ、ザ・ルースターズ、アレキサンダー・ラグタイム・バンド(現:ARB)らの総称で、その頃から福岡のミュージックシーンのレベルが高かったことをうかがわせる呼称である。THE MODSの結成が1974年ということは、結成後に海外パンクの影響を受けたことになる。1976年にメンバーチェンジもあって“THE MODS”に改名。1981年にメジャーデビューを果たすが、改名から5年を費やしている。サンハウスがアルバム『有頂天』でデビューしたのが1975年。シーナ&ロケッツはシングル「涙のハイウェイ」で、アレキサンダー・ラグタイム・バンドはシングル「野良犬」で、ともに1978年にデビューしている。ザ・ルースターズにしても1980年にシングル「ロージー/恋をしようよ」でデビューしており、つまり、THE MODSは他の“めんたいロック”勢の後塵を拝した格好であった。
初期THE MODSのサウンドは…と言えば、モロにパンクである。いや、サウンドに限らず、歌詞の面でもその影響を隠し得ない。まずサウンド。アルバム『FIGHT OR FLIGHT』収録曲は、どれがどうというよりも全てにおいてパンク色が濃い。M2「WATCH YOUR STEP」辺りはピストルズっぽいが、多くの楽曲で感じるのはクラッシュの匂いだ。M3「崩れ落ちる前に」やM7「NO REACTION」、M9「ONE MORE TRY」のギターが引っ張る様子はもちろんのこと、M6「TWO PUNKS」ではレゲエを取り入れているのだから、当時THE MODSがクラッシュから受けた衝撃はさぞ凄まじかったことが推察できる。「TWO PUNKS」には《Hammersmithに電話しよう》という歌詞があるが、これはどう考えてもクラッシュの「ハマースミス宮殿の白人」(原題:「(White Man) in Hammersmith Palais」)のオマージュであろう。また、M1「不良少年の詩」のサブタイトル“SONG FOR JOHN SIMON RICHIE AND US”にある“JOHN SIMON RICHIE”とは、ピストルズのベーシストであったパンクのカリスマ、シド・ヴィシャスの本名である。《ガラスの破片で体を傷つけ/涼しい顔して 俺に言ったね/そんなに長くは生きたくないと》と歌われる内容はシドそのもの。《でも気をつけな/あの娘だけは/OH NO 悪魔の運び屋さ》はシドの恋人だったナンシー・ローラ・スパンゲンのことを指すのだろうし、この楽曲のイントロに被さる “Right! Now,ha ha ha ha ha…”はピストルズの「Anarchy In The U.K.」から拝借したものだろう。
だからと言って、初期THE MODSはクラッシュ、ピストルズのコピーバンドのようなものだったのかというと、断じてそうではないことを強調しておく。今でも「THE MODSって結局はクラッシュでしょ?」的な批判が散見されるが、そんなことを言うのであれば、ザ・クラッシュのサウンド自体、さまざまな音楽的要素を取り入れているものなので、その批判は的外れも甚だしい。そもそもR&Rは先達へのオマージュで成り立っているようなところもあるので、そんなにオリジナリティーが大事だと言うのならば、後生大事にチャック・ベリー辺りを、いや、ロバート・ジョンソンを聴いていればよろし。結論から書くが、THE MODSの特徴のひとつは、パンクサウンドに叙情的とも言える歌を乗せたことではないかと思う。歌とは、森山達也(Vo&Gu)の声質を含めたヴォーカルの主旋律である。森山以外のメンバー、苣木寛之(Gu)、北里晃一(Ba)、梶浦雅裕(Dr)も作曲に参加しているのだが、いずれのメロディーも所謂洋楽とは趣を異にし、フォークとも演歌とも違うが、明らかに日本っぽい印象がある。それが森山の声で奏でられると特有のウエット感が醸し出される。これこそがTHE MODSならではの独自性と言えるものではないだろうか。
そこに乗る歌詞にも注目である。クラッシュ、ピストルズの影響で始動したTHE MODSだけに、さすがにアルバム『FIGHT OR FLIGHT』には、俗に言う“反逆の歌”が多い。M2「WATCH YOUR STEP」、M3「崩れ落ちる前に」、M5「が・ま・ん・す・る・ん・だ」、M9「ONE MORE TRY」、M10「TOMORROW NEVER COMES (WARNING FOR KIDS)」辺りがそれに当たる。が、これまた、THE MODSはそれだけでない。それだけでないどころか、反逆の歌の先にあるものと言えばいいだろうか、反逆以外の歌詞が圧倒的な存在感を放っていると思う。M7「NO REACTION」の《鏡を見ればそこに 見える一日が俺の/街は相変わらず 退屈で/昼の眩しさも 感じない》で見せる悲観の気だるさも少なくとも当時のパンクにはなかった文脈であるが、やはり何と言ってもM6「TWO PUNKS」に止めを刺すであろう。《俺の女は目に涙を浮かべてた いつまで続けるのHey Darling そう言いやがる/そんな事 俺にもわかりゃしねえよ もう列車には乗り遅れた》《俺たちは乗る事が出来なかった/俺たちは乗せてもらえはしなかった/Two Punks 縛られて/見張られて/逃げられない/見張られて/縛られて》。前述した“めんたいロック”勢とTHE MODSとの関係を鑑みると実に味わい深い内容だ。まぁ、森山に具体的な葛藤があったかどうかはともかくとしても、海外パンクにはない、私小説風の世界観が極めて魅力的だ。クラッシュの「白い暴動」も「ロンドン・コーリング」、あるいはピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」も「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」も、今聴いてもカッコ良い。これは間違いないが、しかし、《ロンドン・イズ・バーニング!》と言われても、《ノー・フューチャー!》と言われても、ピンと来ない人は多いのではなかろうか。筆者は今もそうだ。それよりも《俺たちは乗る事が出来なかった》のほうにグッと来るし、多くの日本人の琴線に触れるのはこちらだろう。海外パンクの衝撃から受けたテンションのみを正しく抽出し、メロディー、歌詞はあくまでも独自性を貫いた…それがTHE MODS、最大の特徴であろうし、日本ロック史における功績と言っていいと思う。『FIGHT OR FLIGHT』はそれを確認できる作品である。


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