バンドのイメージを偏ったかたちで伝えるMC5の超問題作『Kick Out The Jams』

2015年8月21日 / 18:00

『Kick Out The Jams』のジャケット写真 (okmusic UP's)

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、プライマル・スクリーム、そして日本のギターウルフら、多くのバンドがカバーした衝撃のロックナンバー「キック・アウト・ザ・ジャムス」を含むMC5のデビューアルバム。パンクおよびヘヴィメタルの源流と謳われ、未だに絶賛されているこのアルバムの魅力と、その後の時代に与えた誤解について考える。

 アイルランドの若き4人組、ザ・ストライプスの来日公演で「キック・アウト・ザ・ジャムス」のカバーを聴き、そのオリジナルバージョンが収録されているMC 5の『キック・アウト・ザ・ジャムス』をクローゼットから引っ張り出してみた。

 高校の同級生たちが60年代半ばに結成したデイトロイト(=モーターシティー)の5人組、MC5が69年にリリースしたデビュー・ライヴアルバムである。デビューアルバムがいきなりライヴ盤だなんて、それだけでも期待はぐーんと上がるというものだが、パンク/ヘヴィメタルの先駆者と謳われるこの名盤中の名盤を、長年、聴きたい聴きたいと思い続けて、その念願がようやく叶い、初めて聴いた時のことは、今でもしっかりと覚えている。

 なぜなら、思いっきりずっこけたからだ。

 それはたぶんパンクやメタルの先駆者と謳われながらMC 5のアルバムが、物の本では同様に語られているヴェルヴェット・アンダーグラウンドやニューヨーク・ドールズ、あるいはストゥージズとは違って、長い間、入手困難だったことにも理由があると思うのだが、彼らのディスコグラフィー中、もっとも知られているにもかかわらず、リイシューが一番遅かった(はず)この『キック・アウト・ザ・ジャムス』をついに手に入れた頃には、パンク/メタルの先駆者であることに加え、FBIに監視されていたとか、アルバムに収録した「Motherfucker!!!!」という雄叫びが大騒動になっとか、そういう喧伝に刺激され、きっととんでもなく過激なロックが聴けるにちがいない――と、ぱんぱんに膨れ上がっていた期待に応える冒頭のアジテーションに続いて聴こえてきたのが、なんだか妙にノリのいいギターとファルセットのヴォーカルだったんだから、その落胆たるや。しかもヴォーカリストの髪形は巨大アフロという…。
 もっとも、「Motherfucker!!!!」と叫んだ後、ガガガガーン・ガガガガーン!と爆音を轟かせる2曲目のアルバムタイトル・ナンバー「キック・アウト・ザ・ジャムス」は文句なしにカッコ良かった。そこからなだれ込む3曲目の「カム・トゥゲザー」も緊迫感あふれる演奏がイカしていた。4曲目の「ロケット・リデューサーNo.62」も5曲目の「ボーダーライン」もギャンギャンと鳴るギターがなかなかだ。しかし、その後、2曲続くブルースロック・ナンバーやラストを飾る8分越えのサイケデリック・ナンバー「スターシップ」は期待していたものとは全然違ったし、パンク/メタルの先駆者を求めているリスナーには……いや、少なくとも当時の筆者には正直、退屈以外の何物でもなかった――と言ってしまうことは、MC 5が受けていたブラックミュージックの影響や彼らが当時、果敢にフリージャズに挑戦していたことを理解できなかったことを白状することに等しい。しかし、それも含め、このアルバムの魅力を本当に理解したリスナーは一体、どれだけいたんだろうか? 当時、ライヴバンドとして名を馳せていたMC5の姿をとらえた作品であることを思えば、間違っているとは言えないものの、このアルバムに寄せられる絶賛は、未だに「キック・アウト・ザ・ジャムス」1曲のみに対するもののように思える。
 現在では、MC 5の最高傑作は『キック・アウト・ザ・ジャムス』ではなく、3作目にしてラストアルバムになってしまった『ハイ・タイム』(71年)という意見が定説になりつつあるが、本当であれば、MC5と同じデトロイトから現れたホワイト・ストライプスらの活躍によって、ガレージロックのリバイバルブームが盛り上がった時、その源流であるMC5はパンク/メタルの先駆けに止まらない音楽志向を持っていたバンドとして再評価される必要があったんじゃないかと今さらながら思わずにいられない。

 このアルバムが「キック・アウト・ザ・ジャムス」1曲のみで語られるのは、その衝撃があまりにもデカすぎたからに他ならないが、前述したザ・ストライプス他、多くのバンドがカバーしてきたロック史に残る必殺ナンバーを生んだことが、バンドのイメージを偏った形で決定付けてしまったことは、ある意味、皮肉とも不幸とも言えるが、その1曲がなければ、発表当時、セールス面において成功したわけではないこの『キック・アウト・ザ・ジャムス』がその後、名盤として語り継がれることもなかったかもしれない。


MC5

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