【映画コラム】ストリップ劇場を舞台にしたラブストーリー『彼女は夢で踊る』

2020年10月24日 / 06:30

 新型コロナウイルスの影響で、東京での上映が延期されていた、広島発の映画『彼女は夢で踊る』が10月23日から公開された。

(C)2019 映画『彼女は夢で踊る』製作委員会

 広島の老舗ストリップ劇場に閉館の時が迫っていた。社長の木下(加藤雅也)は、過去の華やかな時代や、自らの若き日(犬飼貴丈)の恋に思いをはせる。そんな中、かつての恋人サラそっくりの踊り子メロディ(岡村いずみ)が現れる。

 『シネマの天使』(15)で、閉館する福山の映画館を描いた時川英之監督が、今回は広島に実在するストリップ劇場を舞台に、現在と過去を交差させながら、主人公の心境や、ストリッパーたちの心意気を描いた。

 『シネマの天使』同様、演出もストーリーテリングも不器用で、題材への思い入れの深さの割には、それがストレートに伝わってこないもどかしさを感じるのは否めない。しかし映画の役割の一つに、「みんなの思い出の場所にある建物を、映像の中に残すこと」があるとすれば、それは十分に果たしていると言えるだろう。

 また、もじゃもじゃ頭に、眼鏡にひげという、いつもとは違う風貌でストリップ劇場の社長を演じた加藤の好演が光る。中でも、松山千春の「恋」を口ずさむ姿と、ラストのレディオヘッドの「クリープ」にのって踊る姿が印象に残った。

 加藤はインタビューで「地方発信の映画に出るときは、東京のメジャーの作品とは違うキャラクターが演じられることに意義がある」と語っていた。

 そして、加藤の「広島の街には、この映画が必要としたエネルギーがあった」という言葉通り、本作の“もう一人の主役”は広島という街である。こうしたことも、地方発信映画の魅力の一つだと思う。

 さて、ストリップには、男性の欲望を満たすためのもの、公序良俗に反するもの、女性が見るものではない、というイメージがある。

 だが本作は、加藤が「映倫が、PG12(12歳未満(小学生以下)の鑑賞には、成人保護者の助言や指導が適当とされる)にしたことが、これはラブストーリーであり、アートであると認めてくれた何よりの証拠。だから、女性が見てもいいものになっていると思うし、ストリップが日本の文化の一つであることも感じてもらえると思う」と語るように、あくまでも、ストリップ劇場を舞台にした切ないラブストーリーなのだ。(田中雄二)


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