【映画コラム】事件の背景や人間模様をじっくりと描いた『64−ロクヨン−前編』

2016年5月7日 / 19:27
(C) 2016映画「64」製作委員会

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 『半落ち』『クライマーズ・ハイ』などを著した元新聞記者の横山秀夫の原作を、2部作で映画化した『64−ロクヨン−前編』が公開された。『アントキノイノチ』(11)などの瀬々敬久が監督、脚色を担当している。

 昭和天皇の崩御によって、たった7日間で幕を閉じた昭和64年に発生した少女誘拐殺人事件。通称「ロクヨン」と呼ばれた事件が未解決のまま時は過ぎたが、時効まであと1年と迫った平成14年にロクヨンを模した誘拐事件が発生する。

 主人公の三上(佐藤浩市)は、ロクヨン当時は刑事部の刑事として事件の渦中にいたが、今は警務部の広報官となった男。前編では彼の苦悩を中心に、警察という組織内の対立構造、その中で生きる者の葛藤、記者クラブとの対立などが描かれる。

 本作は、佐藤をはじめとする男優たちによる骨太なドラマが展開する群像劇だが、面目や体面にこだわる男たちの醜態を見せられて閉口するところもある。

 また『スポットライト 世紀のスクープ』など、ハリウッド映画の新聞記者のスマートさとは対照的に、記者たちは、感情むき出しで警察に食って掛かり、わめいてばかりいるようにも見え、嫌な気分にさせられるのだが、これらは観客の気持ちを三上の側に寄せるために取られた戦法なのではという気もする。

 最近はやりの2部作映画だが、もちろんただ長く描けばいいというものではない。物語をきちんと整理する努力もまた不可欠なはず。その点、本作は事件の背景や人間模様を『前編』でじっくりと描いて、ロクヨンの真相解明がなる『後編』(6月11日公開)へと興味をつないでいる。(田中雄二)


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